「親の介護」の末、「貧困」に陥った中年男性を苦しめる「病気」とケースワーカーの「冷たい言葉」
現代の日本は、非正規雇用の拡大により所得格差が急速に進んできています。一方で、親の介護問題を抱え込み、介護離職し、のちに貧困に苦しむ人たちもけっして少なくありません。
東京都に住むAさん(50代男性)は、肩から指先にかけての痛みに悩まされ続けています。その原因は医師から「長年、飲食業界で体を酷使してきたためじゃないですか」と言われていますが、どうやらそれだけではなさそうです。
おまけに肝心の病名はわからないし、、、
「痛いっ!」
いつも自分の声にびっくりして飛び起きてしまう。。。
今は苦しい日々が続いています。
一方で、何もかもが右肩上がりで成長していく日本経済の中にあって、若き日のAさんには「将来は自分の店を持つんだ」という希望しかありませんでした。
しかし、故郷の母親ががんになってしまいました。
離婚して家を出ていった父親や疎遠になった弟に代わり、母親の治療費や看病にかかる費用はすべてAさんが負担しました。
勤務先の店主からはのれん分けを約束され、見合い相手を紹介されるほど目をかけてもらっていましたが、貯めていた開店資金を取り崩してまで母親の面倒をみていたことをそれとなく批判されて以後、
関係がぎくしゃくするようになり、結局、十数年勤めた店を辞めることとなったのです。
当時付き合っていた女性からは「優しすぎるんだよね」と言われて振られ…
亡くなる直前、母親からは「あんたの人生を壊してごめんね」と言われ…
それでもAさんは、「貯金を使い果たしましたが、僕は後悔していません」と言います。
その後、居酒屋や弁当店などで働いたAさん。当初は住宅手当などがつく福利厚生の手厚い職場もありましたが、長引く不況とともに労働環境は劣化。
賃金は低く、深夜勤務が明けた後、そのまま別の飲食店でアルバイトをして生計を立てるしかありませんでした。土日の休みもほとんどありません。
アルバイトも合わせると連日18時間近く働き、お酒の力を借りて強引に数時間仮眠。そんな生活が1年半ほど続きましたが、肝心の給与は据え置き。残業代も休日出勤手当もなし。
給与総額を勤務時間で割ると、最低賃金をはるかに下回っています。そんな状況の中、未払い賃金もあり、会社は倒産。
体に異変が現れたのは、その後に勤めた弁当店でのことでした。ある日突然、右鎖骨付近がはれ上がり、首筋がつったような状態になったのです。
次第に痛みとしびれは両肩、腕、指先にも広がり、上着を羽織っても、電車の吊り革をつかんでも、悲鳴を上げるほどにまでなってしまったのです。
胸鎖関節炎、リウマチ、線維筋痛症・・・
いろんな病名が疑われましたが、いまだに原因は不明。医師からは「とにかく、今後は飲食店で働かないように」と命じられ、ここ1、2年は生活保護と週2~3回の清掃アルバイトで生計を立てています。
Aさんは、母親の病気のことや働き詰めの日々を振り返るときも、「人生、何があるかわからないからね」と言って穏やかな表情を崩しません。明るくてマイペースな人なのです。
そんな彼が唯一ストレスだと訴えるのが、月1回、生活保護費の支給日に行われるケースワーカーとの面談です。
いつも「仕事をしろ」ときつく言われ、こっちの話は聞いてもらえません。
Aさんが体の不調を訴えようとすると、ケースワーカーの女性は書類を閉じて立ち上がり、無言で「面談終了!」と告げるように去って行きます。
あるとき、隣のブースで、窮状を訴えようとしたお年寄りが孫にあたるような若いケースワーカーから「困っているのはあなただけじゃないんですよ」と遮られているのを見て以来、Aさんは「ケースワーカーの話はただ黙って聞くしかないんだ」と悟ったそうです。
働けない人に「もっと働け!」と言ってどうするのか?
Aさんはこう言っています。
「私だって、何とか働きたいんです。でも、本当に体がついていかないんです。私の周りには嘘をついて生活保護をもらっている人がいますが、まったくふざけたやつらだと思います。」
一定の条件下にある国民が生活保護を受けることは憲法で保障された権利であり、国の義務でもあります。確かに、不正受給をしている人も少なからずいますが、一方で、受給条件を満たしているのに生活保護を受けることは「恥」だと考え、申請していない人たちも多くいるのです。
Aさんの場合も、気持ち的には「恥」だと考えているわけですが、体がどうにもきついのです。
あまりニュースにはなりませんが、現実にはこの豊かだとも思える日本において、餓死や孤立死、心中といった事件が起こっているのです。
「主張する弱者ほど叩かれる」と言った言葉もありますが、Aさんの場合は、過重労働の末に何百万円もの未払い賃金を踏み倒され、体を壊し、さらには生保保護のケースワーカーからボロクソに言われ…
それでもなお、Aさんは「反省」と「自己責任」を口にしています。まるで、バッシングの標的とならない術を本能的に知っている「弱者」であるかのように。。。
胸中の不安と戸惑いは消えません。それでも、おぼろに明けていく朝の気配を感じながら、自分の人生にも再び夜明けが訪れることを信じてやみません。
頑張れ!Aさん!
Aさんに幸あれっ!