宇多田ヒカルに学ぶ!自死遺族としての生き方
6年間の活動休止期間を経て、8年半ぶりのニューアルバム『Fantôme』をリリースした宇多田ヒカルさん。
本物のアーティストが少なってきた昨今、AKB48をはじめとする特典商法頼みになっている音楽業界に一石を投じるべく、宇多田ヒカルさんのアルバムはオリコン週間ランキングで堂々の1位を獲得しました。
同日発売のEXILEのベストアルバムは、複数枚を同時購入させるための露骨な特典商法を仕掛けていました。これを抑えての1位というのは大きな意味があるのです。
ただ、そのこと自体は彼女のアーティストとしての唯一無二性からすれば特段驚くべきことではないのかもしれません。『Fantome』のクオリティは高く、国外でも大きな話題を呼んでいることがそのことを証明しています。
驚くべきは、楽曲の中身!
亡くなった母への想いをストレートに表現しているのです!
NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』の主題歌「花束を君に」や、『NEWS ZERO』のテーマソング「真夏の通り雨」、そして、<私の心の中にあなたがいる いつ如何なる時も一人で歩いたつもりの道でも 始まりはあなただった> と力強く歌い上げたアルバム1曲目の「道」。
最愛の母・藤圭子さんへのレクイエムともいうべき珠玉の名曲たちが今、宇多田ヒカルの復活と共に世界に発信されたのです。
今回は、そんな宇多田さんに「自死遺族としての生き方」、「才能をサビつかせないための心得」について学んでみたいと思います。
今回のアルバム『Fantôme』は、宇多田さん自身も「母へ捧げた」ものと語っている通りの力作となっていますが、ここに至るまでには自身の中でかなりの葛藤がありました。
母親の自殺…
心にぽっかりと大きく開いた穴を埋めるべく、年月をかけて少しずつアーティストモードに入っていきます。母への感謝の気持ちを込め、「花束を君に」を書き上げた後も、時々ガクッと落ちてしまうことがあったそうですが、
ちょうどその頃、宇多田さんは「自死遺族の会合」に通っていたそうです。
そこである人に、「亡くなった人に手紙を書くと気持ちが整理できて、伝えられた気持ちになれますし、スッキリしますよ」と言われ、
あぁ、それは「花束を君に」で思いっきりやったじゃんってことに気づき、また気持ちを立て直すことができたとか。
このように、同じ境遇にある人たちと交流することで救われることは多々あります。宇多田さんの場合はこのほかにも、自死遺族の支援団体や自死で親を無くした子供たちのためのサポート団体に匿名で多額の寄付を行っています。
母・藤圭子の死直後には、「光は天使だ」と言われたり、「悪魔の子だ」「私の子じゃない」と言われたり、色々あった中、どんな時も愛してくれ、良い母親であろうといつも頑張ってくれてたんだなと今になってわかる、とツイートしていた宇多田さん。
泣かない子供…
感情を表に出さない子供…
典型的なアダルドチルドレン…
そんな子供になっていた宇多田さんは
母の死から数年が経ち…
気持ちの整理のために、母へ捧げた手紙『Fantôme』の完成が何よりも大きかったに違いありません。
ゲーテの残した言葉に、「才能は孤独のうちに成り、人格は世の荒波に揉まれて成る」というものがあります。
「日本にいても、海外にいても、ホームにいるとは感じられず、家族の形も他のみんなとは違う」とずっと感じ続けていた宇多田さん。
しかし、そんな疎外感があったからこそ曲作りに生かせてこれたのではないか、と自身でも振り返っていらっしゃいます。
そう、宇多田さんは自分の内側の世界で、自由に、想像と思考を無限に働かせ、音楽を作ってきたのです。
「9歳のとき、怒りとか不満といった感情は完全になくなっていた。外界には何も求めなくなっていた。」
「自分にとっては内側の世界の方が大事だった。そこには自由があり、無限の想像と思考があり、最強だと思った。」
疎外感というものは誰でも感じるものですし、寂しさとか孤独とか、そういったものを表現し発信していくことこそがアーテイストの役割です。
もしあなたが、思い描いた人生を歩めていないことで孤独を感じているのだとしたら、その孤独こそがあなたの才能や意欲を高めることに繋がるのかもしれません。
宇多田さんの場合は、母親が亡くなったことで、これまでの暗号のように伝えていたメッセージソングを、赤裸々に語るスタイルに変えたことで覚醒したのです。才能の幅を、より大きく広げていくことができたのです。
宇多田さんは、“温故知新”という故事の通り、賢人たちの言葉を吸収し、自分の血や肉とした上で“詞”という形でアウトプットしているようです。
感覚を研ぎ澄ませ、限られた日本語から新しい気づきを得ることも、才能を研磨させることに繋がっているのでしょう。
以前の宇多田さんは、 “密室”の中で曲作りをするスタイルでした。しかし今回のアルバム作りでは、他のアーティストを巻き込む“コラボレーション”にも挑戦しています。
自分の流儀を変化させ、他人と協力する道を選んだ柔軟さも、アイディアを枯渇させないために大切なことなのかもしれません。
要するに、宇多田さんは母の死の悲しみを乗り越えたというより、むしろ母親が亡くなったことで、はじめて母親と真正面から向き合うことができた。そのことによって呪縛を乗り越え、独立したひとりの人間になれた。そういうことなのではないでしょうか。
以上、宇多田ヒカルさんに学ぶ「自死遺族としての生き方」「才能をサビさせないための心得」についてお届けしましたがいかがでしたでしょうか?
今後の彼女の作品には、
今回のアルバムにはなかった「子を思う母の心」のようなわかりやすい母性の歌にも期待したいと思います。
実際、インタビューの中で宇多田さんは「子供を産んだことで自分の奥底のあるものを発見した」ことを明かしています。
それはいったい何なのか?彼女流の表現で創作していってもらえれば何よりです。
母の死を乗り越えた宇多田ヒカルさん。彼女が表現しようとしているのは、けっして儚さというものではなく、私たちが気づいていないまったく新しい世界なのかもしれません。
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