喪失感の克服 「失うこと」「生きること」の意味を考える
大事な人を亡くした深い悲しみや喪失感から、あなたはどうやって立ち直ってきましたか?
心にぽっかりと穴が空き感情がなくなってしまう。
生きる意味がわからなくなる。
これが喪失感というものです。
幸せに生きている人でも、別れや死別、老いや病気は必ずやってきます。
「自分の人生は失敗だった」といった無価値感や、そこから派生して生まれる孤独感なども、現代社会においては多く見受けられます。
そこで今回は、「喪失感」というものについて考えてみたいと思います。
人は、悲しみや苦しみを経験した時、感覚を麻痺させて自分を守るようにできています。また、人生の道が閉ざされたように感じた時には、神も仏もないかのように不感症に陥ります。
自らの心を閉ざした状態です。
力なく、非常に不安定な状態でもあります。
しかしながら、このようなことは誰にでも起こり得る試練なのです。大事なのは、「喪失感」「無価値感」「孤独」といった感情は、必ず乗り越えられるということ。
まずはこのことを覚えておきましょう。
以下に述べる「大切なこと」がわかると喪失感を乗り越えることができます。
・大切な人との別れは、「それだけ大きな愛がある」ということです。
・人生は別れと出会いでできています。新たな出会いは、大切な存在が形を変えて現れているのかもしれません。
・命は永遠です。亡くなった人が不幸になることはありません。
・ある日突然病気になることもあります。それは、大切なことを思い出すためのチャンスでもあります。
・人間の内側には、どんなに辛い状況の中にいても、「生きてるって素晴らしい」と感じられる力が宿っています。
・大切なものを失って初めて、本当に大事なものに気づかされるものです。
・愛がなければ喪失感に苦しむことはありません。あなたには愛があるのです。
日常の些細なこと一つひとつに没頭し、感情の流れが変わるのを待つ人もいるでしょう。
大切な人のためにも頑張ってみようと思うことから始める人もいるでしょう。
アプローチの仕方は人それぞれですが、そもそも「喪失感」とは、人間としてすごく自然な反応でもあるのです。そして私たちは、どんな状況にあったとしても、喪失の段階を健全に抜け出すことができます。
ショック、信じられない、理解不能、自分自身への怒り、罪悪感、後悔、もっとああしていればよかった、絶望、、、
「喪失感」にはいろんな負の感情が伴いますが、こういった精神状態からでも必ず、時の流れとともに、人は少しずつ元気になっていけるのです。
これは誰しもが経験していることなのです。
悲しみは本当に辛いですが、まずはしっかりと受け入れなくてはなりません。現実を見ることが大切です。現実を受け入れた後は、次に何をするかに焦点を当てていく必要があります。
当然、喪失からの回復にはある程度の時間を要しますが、「生きる意味」を見出すことで、時の経過とともに現在自分の身に起きている悲しみがどういったものかを客観的にみることができるようになってきます。
これこそが、誰もが感じる「喪失感」というものであり、悲しみのプロセスでもあるのです。
愛する人との別れであったり、健康や身体機能の喪失であったり、理想に対する幻滅…
これらの対象に対する「喪失感」は一般的に悲しみや挫折感といったネガティブなものとして捉えられています。しかしながら、この「失うこと」にはちゃんと意味があるのです。
人間として成長していくために…
やる気 (生きる意欲) がなくなってしまい、絶望感を感じてしまうこともあるでしょう。大切な人を失ってしまった場合であれば、「できることなら生き返ってほしい」「亡くなる前の時間に戻してほしい」といった再生を願う気持ちも浮かぶでしょう。
「もっとたくさん話したり、一緒の時間を過ごしておけばよかった」と、自責の念や後悔も出てきます。
このように、「愛」があるからこそ、相反する負の感情も湧き上がってくるのです。この時ばかりは、大きく感情が揺らぎ、気持ちの整理がつかず、混乱してしまうのも仕方のないことです。
この混乱してしまった気持ちを整理していくためにモーニングワークというものをオススメしたいと思います。
モーニングワークとは、「喪の作業」「悲哀の仕事」とも言われ、喪失感による悲しみや後悔に一度しっかりと浸る作業のことです。
しっかりと泣き、気分が落ち込んだらそのまま落ち込んでおく過程になります。
これは非常に大切です!
この過程を踏まずに、無理して明るく元気に振舞ってしまうと後から飛んだしっぺ返しに襲われてしまいます。
「喪の作業」は必ず行うようにしておきましょう。
モーニングワークの次にやるべきことは、グリーフワークです。グリーフとは英語で悲嘆を意味します。精神的に立ち直るために、自ら行う癒やしの作業がグリーフ・ワークなのです。
高橋さん (60代男性) は、2007年に最愛の妻をがんで亡くしました。以来数年間はモーニングワークに時間をかけてきましたが、 未だ「心の奥深くに悲しみが残っている」状態。
しかし「いつまでもこのままではよくない」と考え、次のステップ、グリーフワークへ踏み出すことにしたのです。
「やるからには最も過酷なものを」ということで、2015年夏、お遍路に行くことを決断!
40年連れ添った妻。子どもはいなかったので、なおさら片腕をもぎ取られたような深い喪失感に襲われた高橋さん。それを埋めるべく、毎日心の中で何千回も妻と話をしてきました。
妻の死から数か月間は、帰宅してはアルコール度数の高い酒を飲み、自分を責めては泣いてばかりいました。体重も減り、『死ねないから生きている』という状態でした。
どん底まで悲しみ抜いたことで、うつのような症状は時間とともに改善し、『情けない姿を見て、妻が悲しんでいるに違いない。積極的に生きよう』と考えるようになりました。
規則正しい生活に戻そうと食生活を改め、毎日1万歩以上を歩き、筋トレも始めましたこうして少しずつ気持ちは前向きになり、悲しみを忘れるために本格的な登山なども始めました。
妻の死から1年後には見かけ上は普通の生活に戻ることができていたのですが、実はまだまだ「喪失感」の闇は深かったのです。
7年ほどかけてようやくモーニングワークからグリーフワークのときがやってきました。
「お遍路」です。
焼けたアスファルトの上は 灼熱 地獄。荷物を背負うと歩くのも大変で、初日に20キロ歩くと全身筋肉痛。1週間ほどして体が慣れてくると、気持ちを整理する余裕も生まれます。
「亡き妻と一緒に歩いている」と思うと、慰霊の気持ちはすぐに感謝の気持ちに変わり…
「つらい経験も妻とともに」という感覚で、旅先では自然と笑顔も出るようになっていったのです。
立ち直りで大切なこと。
それは、まず第一に「時間」です。
悲しい気持ちや「死」という現実を真摯に受け入れること。
次に、真剣に取り組める趣味などを見つけることも大事です。人によっては周囲の人たちがサポートしてあげ、専門的な支援を要する場合もあるでしょう。
特に男性は『人に助けを求めない』傾向があります。
病院での医療は患者が亡くなって退院する時点で終わりますが、家族の悲しみ、苦しみはそこから始まります。
日本では年間20万人もの人たちがガンで配偶者を亡くすことを考えると、残された遺族の心のケアは、医療の延長線上にある重い問題だとも思うのです。
悲しみに浸った後は、どうか周りに相談することを忘れないでください。