慢性的な腹痛や下痢は「うつ病」を治せば改善するかもしれません
過敏性腸症候群 (IBS)の発症の大きな要因はストレスだといわれています。過敏性腸症候群の患者さんは、うつ病や不安症といった心の病気を抱えているケースが多いことが知られています。
では、心の病気を治療することで、過敏性腸症候群の症状は改善できるのでしょうか?ここでは、うつ病 &不安症と過敏性腸症候群の関係性について解説したいと思います。
ストレスと身体不調の関係
繰り返しになりますが、過敏性腸症候群 (IBS)では「ストレスが腹痛や下痢・便秘といった消化器症状を悪化させる」ことが知られています。
そこには、脳と消化管の深い関係が隠れています。ストレスが加わると、身体には様々な生体反応が起こるのです。
例えば、血圧や心拍数の増加、消化管の運動の低下・亢進(こうしん)などは、自律神経系を介 した生体反応です。もちろん、 同じストレスを受けても、それに対するストレス反応の大きさには個人差がありま す。
それ以外にも、遺伝的な要因や幼少期の体験、体内環境など様々な背景がストレス反応に大きく影響を及ぼしています。実際、被災地では、被災によるストレスで胃潰瘍にかかる人が増加しています。
ただ、その大部分はピロリ菌陽性だったという報告もあり、このことは「同じストレスを受けても病気を発症するかどうかは個人差がある」ということの証明なのではないでしょうか。
腹痛の原因は「脳腸相関」の異常?
過敏性腸症候群の発症には、「脳の視床下部」「下垂体」「副腎皮質系 (HPA系)」という、 ホルモンを介して生体反応を制御する神経内分泌系が大きく関わっています。
人にストレスが加わると、HPA系が活性化され、視床下部から副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)というホルモンが放出されます。このCRFは、下部消化管 (結腸)の運動を活性化したり、上部消化管(胃・十二指腸)の運動を抑制したりすると考えられています。
過敏性腸症候群の患者さん当事者の方であればお分かりのことだと思いますが、便が直腸の壁を押し広げる刺激に対して痛みを感じやすい「内臓知覚過敏」というものを感じているはずです。
こうした、脳と腸が互いに密接に影響を及ぼし合う関係を「脳腸相関」と言います。ストレスは、脳腸相関における神経内分泌系の異常をもたらし、それがある一 定のレベルを越えたときに、腹痛や下痢・便秘といった過敏性腸症候群の症状として現れるものと考えられているのです。
過敏性腸症候群の治療にはストレス軽減が一番!
ストレスが過敏性腸症候群の大きな原因であることから、消化器症状だけに焦点を当てた対症療法だけでは治療は不十分です。「ストレスを解消する」「睡眠や休養を十分にとる」など、ライフスタイルの改善が治療には欠かせません。
ただ、ストレス の受けやすさには様々な要因が影響するため、ライフスタイルを改善したつもりでもなかなか症状がよくならない場合には、やはり医師に相談してみましょう。
過敏性腸症候群には抗うつ剤使用も治療法の一つ
たびたび繰り返しになりますが、うつ病があると過敏性腸症候群 (IBS)を発症しやすいようです。過敏性腸症候群は、うつや不安といった心理的側面と密接な関係があるのです。
逆に、過敏性腸症候群は単独ではうつ病や不安症のリスク要因にはなりません。
というわけで、
抗うつ薬や抗不安薬も、「過敏性腸症候群」の治療の選択肢のひとつなのです。実際、過敏性腸症候群に対する治療は、消化器そのものに対する治療と心理的側面に対する治療のふたつを組み合わせて行われています。
日本消化器学会の治療ガイドラインでは、まず消化器機能を改善する治療を行い、効果が出なければ抗うつ薬などを使用し、心理的側面に対する治療を行うとされています。
つまり、うつ病や不安症のある患者さんの場合、それらの症状を治療することで過敏性腸症候群の症状が軽減されると考えられているため、抗うつ薬や抗不安薬の使用が実施されたりします。
おわりに
ただし、当然のことながら、抗うつ薬や抗不安薬は過敏性腸症候群の症状改善に効果がある一方で、副作用も出やすい薬です。
三環系の抗うつ薬は腹痛や下痢に効果があるのですが、便秘は改善されないようです。どういうことかといえば、「便秘」が三環系抗うつ薬の代表的な副作用のひとつなのです。
ほかにも、眠気や口渇といった副作用もあります。また、抗不安薬の中には依存性が生じる薬もあります。
というわけで、過敏性腸症候群の治療では、薬を使用することによるメリットとデメリットのバラ ンスを考えて、他の治療で効果が得られない場合に抗うつ薬や抗不安薬が使用されるべきなのです。
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