トランプの医療制度改革は「無保険者を減らしたオバマケア」を撤廃できるの!?

 

ドナルド・トランプが大統領になったことで、(アメリカ国内で) 最も注目されている政策の一つがオバマケアの行方でしょう。トランプは、選挙期間中もことあるごとに「オバマケア撤廃」を主張してきたのです。

そして、トランプ新大統領は、就任から100日の間に立法化する「100日プラン」の主要項目にオバマケア廃止を掲げています。果たして、すぐに廃止する必要のあるものだったのでしょうか?

 

 

 

そもそもオバマケアとは?

まず、オバマケアとは何かから振り返りましょう。これは2010年にオバマ大統領の元で発効された医療保険制度改革法のことです。かつて約4,800万人にも上る無保険者がいたアメリカに「国民皆保険制度」を導入しようという狙いでした。

そもそもアメリカ社会は、国民皆保険ではなく、公的な保険は65歳以上の人障害者向けのメディケアと、低所得者向けのメディケイドだけでした。多くの国民は、民間の保険会社の医療保険に個人で加入するか、勤務する企業や団体が提供する団体保険に入っていたのです。

 

勤務先が中小企業で医療保険を提供されていない人や、低所得で民間保険に個人加入は難しいけれどメディケイドの対象にはならない層などの一部が無保険になっていたのです。

オバマ大統領は、その問題の解決を目指したわけです。皆保険への具体的な動きが始まったのは2014年4月からで、柱は2つありました。1つは、民間の保険会社が提供する医療保険への加入を義務づけることです。そしてもう1つは、低所得者向けメディケイドを適用する対象を決定するよう州に義務づけるものでした。

 

 

 

無保険者減らしたが、課題も抱えたオバマケア

(特に低所得者は) 保険料の支払いが難しい中、加入しない人に罰金を課した一方で、補助を付けるなどしたので無保険者の数を減らすことは実現できました。医療費の個人負担額にも、1人当たり、あるいは1世帯当たりで上限を設けました。

 

そのために、保険料の上昇に歯止めがかからなくなったことは大きな課題と言えるでしょう。

 

 

さらに、保険会社が医療保険取引所に出す保険商品も保険料に応じて4つのレベルのものを提供しています。保険料の低い商品は、加入者の自己負担割合が高くなるなど、全面的に低所得者優遇ではありませんが、硬軟両面から加入を促したのです。また、保険会社は、加入者の病歴などを理由に加入を拒否できないといった規制を設けたことも意味がありました。

それでも、共和党は反対し、トランプ新大統領も厳しく批判しています。「政府による保険加入の義務づけは、国民の選択の自由を奪う」といったアメリカらしい反発もありますが、それだけではないでしょう。

 

若い世代 (特に20代前半) には未加入の人が多く、それがいきなり強制加入となってしまったため、「病気になる確率は (中高年より) 低いのに、負担が増したじゃないか」と反発したのです。

結局、罰金を払ってでも加入しない人が増え、想定したより加入者が伸びなかったのです。

 

人口が今も増え続けているアメリカといえども、高齢化は確実に進行しているので、当然医療費も増えざるを得ません。この結果、2017年度の保険料の見通しは、2016年度に比べて10~20%増えることになりました。

若年層の加入が思ったほどでなく、中高年が増えれば、保険金の支払いが増え、保険会社には “望ましくない”ことになります。オバマケアは、保険料の上昇に歯止めがかけられないのです…

 

結果、「保険は儲からない市場」ということで、保険大手の一部は「医療保険から撤退しようかな」といった動きも出始めています。

 

 

 

トランプ氏、7つの医療政策とは?

選挙戦を通じて、トランプは「自分が大統領になったらオバマケアを撤廃する」と主張していました。しかし、すでにオバマケアはアメリカの医療制度に深く入り込んでいるため、単純な話ではありません。

現場の混乱を避ける意味でも、オバマケアを撤廃するのであれば代わりの制度が必要になってきます。そこでトランプは (選挙期間中に) 以下のような7つの医療政策を挙げていました。

 

 

1)健康保険に加入しない人の税金が高くなる制度である「個人加入義務化(Individual mandate)」を廃止する。

 

2)保険会社は州をまたいで健康保険を売ることができるように制度変更する。

 

3)個人の健康保険の保険料を税金控除の対象にする。

 

4)医療貯蓄口座(Health Savings Account:HSA)を導入する。HSAとは、税控除によって個人の医療費用の貯蓄を推奨し、病気やけがのときにはその貯蓄から医療費を支払うようにする仕組みのことである。

 

5)医師や病院に価格に関する透明性を高めることを義務付ける。

 

6)各州にメディケイド(貧困層向けの公的保険)に必要な予算を移譲し、使い方の詳細は各州に任せる。

 

7)薬剤の市場へ自由参入を認め、海外の薬を輸入することを許可する。

 

 

 ちなみに、トランプ氏のウェブサイトにこれらは掲載されていません。医療制度改革については曖昧なものに差し替えられています

 コロコロと考え方を変えてくる大統領のことなので、オバマケアをどこまで撤廃するのか怪しいところです

 

 

 

実はオバマケアの全面的な撤廃はできない

話を整理すれば、トランプはオバマケアを全面撤廃はできません!そこには、共和党 vs 民主党 の複雑な対立があり、また、全面的な撤廃を行えば現場に大混乱が起きてしまうからです。

そして、一番困るのは保険会社ということになります。もしトランプが保険料に対する補助金や個人加入義務を廃止すれば、保険に加入するのは病人ばかりとなり、保険料は高騰します。結果、加入者はいなくなってしまうのです。

 

多くの人は、健康なうちは保険に入らず、病気と診断されてから加入するようになります。がんと診断されてから健康保険に加入する人も出てくるでしょう。そうなれば、保険加入者は病気を持っていて医療を多く使う人ばかりになり、成り立たなくなるのです。

日本においても保険制度の課題は多く、対岸の火事とは言い切れないことがアメリカで起こっているのです。私たちも、将来を見据えて、「保険」についてもう少し真面目に考えていかないといけませんね。

 

 

 


最終更新日:2017/12/01