契約者が保険料を均等に後払いする日本初の「わりかん保険」が発売されました (2020年1月)。これは助け合いによる圧倒的コスパを誇るがん保険です。「がんです」と診断された場合には一律80万円の給付金が支払われ、翌月、契約者全員 (保険金支払い対象者を除く) で支払総額と手数料を割り勘で平等に負担する…という仕組みとなっています。
インターネットを通じて、保険の契約者同士がリスクをシェアし、「誰かが癌になった」際には皆で支え合う。海外では既にいくつもサービス化されている「P2P (peer-to-peer) 保険」(シェアリング・エコノミーを保険に適用したもの) が、ついに日本でも実現するのです。
少額短期保険販売の「justInCase」は、日本生命保険など8社と提携し国内初の「わりかん保険」を発表!
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東京を拠点とするインシュアテック (保険とテクノロジーを掛け合わせた造語)・スタートアップの「justInCase」は、同社が開発してきたP2P保険 (わりかん保険) の発売開始を発表しました (2020年1月)。既に顧客チャネルを持つ企業と提携することで、justInCase自体は保険商品を中心とした新規事業開発に経営資源を集中する戦略を取ったのです。今回提携する (主な販売パートナーとなる) のは、
- アドバンスクリエイト
- SBI日本少額短期保険
- クラウドワークス
- 新生銀行
- チューリッヒ少額短期保険
- ディー・エヌ・エー
- 日本生命保険
- LINE Financial
justInCaseの販売代理店となるケースや、justInCaseへのオンライン送客などが中心となります。世界的に好況なバンカシュアランス (保険会社以外の金融会社による保険商品販売) を意識した顔ぶれとなっています。自社およびパートナー企業で順次取り扱いを開始する予定です。なお数社は、justInCaseが2019年12月に発表した「約10億円のシリーズAラウンド」にも投資家として参加しています。
設立以来、justInCase ではシェアリングエコノミーの概念を保険に応用した「P2P 保険」という分野を開拓してきました。2019年、金融庁からサンドボックス認定を取得し P2P 保険を本格的に提供できるようになったのを受け、がん保険の分野で「わりかん保険」をスタートさせることにしたのです。
「いざというときのためにみんなからお金を集め、必要な人に渡す。」これが日本の保険の原点です。
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鎌倉時代に、「頼母子講」(たのもしこう)という金銭の融通を目的とする民間互助組織が生まれました。これは、一定の期日に構成員が掛け金を出し、くじや入札で決めた当選者に一定の金額を給付し、全構成員に行き渡ったとき解散するというものです。村長が村人からお金を集めてプールしておき、何かあったときに渡したと言われています。これが日本の保険の原点なのです。これを現代の手法で蘇らせたのが「わりかん保険」と言えるでしょう。
これまでの「保険」は保険料を事前に支払う、「わりかん保険」は保険料を後で支払う。これが基本的な違いです。
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「わりかん保険」では、加入時の保険料支払いは不要で、がんと診断された人に支払われた保険金を契約者全員で割り勘し保険料を後払いするという仕組みになっています。事前に手数料を含めた保険料を徴収する従来型の保険と異なり、保険料の算出方法が透明化され、保険料を抑えることができる可能性があります。ちなみに中国では「月95円」の例もあります。
つまり「わりかん保険」は、「リスク」と「負担」がわかりやすいのが売りと言えるでしょう。この保険は、仕組みが複雑で「丼勘定」といわれてきた従来型保険商品のあり方を変える可能性もあります。
「わりかん保険」は、既存のがん保険よりも「低価格」で「後払い」となるのが大きな特徴です。
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この「わりかん保険」には、20〜74歳の人が加入できます。過去5年以内にがん (悪性新生物、上皮内がん) と診察されたり、がんで入院したり、がんで手術を受けたりしたことがない人が対象となっています。オンライン上で保険に申し込むことができ、がんになったら一時金として80万円が支払われます。
契約者は20~39歳、40~54歳、55~74歳でグループに分かれ、各グループ内で毎月払った保険金額に手数料を加え、契約者数で割り勘した保険料を毎月後払いする仕組みとなっています。ちなみに各グループの月額保険料には、それぞれ500円、990円、3190円の上限が設けられています。たとえば契約者数が1万人でがんと診断された人が2人いた場合、保険金の合計金額160万円にjustInCaseが受け取る管理費を加えた金額が保険料となり、残りの9998人で割り勘します。
管理費は加入者数によって変動するそうで、1万人未満が35%、1万〜2万人未満が30%、2万人以上が25%となっています。上の例では管理費が30%となり、保険料として1人あたり229円を負担することになります (保険料は毎月変動)。みんなが健康で誰もがんにならなければ保険料はゼロ。たまたま同時期に複数人ががんと診断されてしまった場合でも、上限額以上の負担を強いられることはありません。
また「わりかん保険」では、先月がんになった人が何人いて、どういう人に自分たちのお金が使われたかも開示される仕組みになっています。原則的に「年齢」「性別」「病気の種類」などごく一部の情報のみになる予定ですが、「自分が支払う保険料で誰かを助けることができる」と実感できる点もこの保険に加入するメリットと言えるでしょう。この点、クラウドファンディングにも通ずるものがありますね。中国でも盛り上がってきており、アリババ (アント・ファイナンシャル) の「相互宝」はリリース1年で加入者数1億人を突破しているようです。
今回協業を発表した企業は金融系の大手企業からネット系のベンチャーまで幅広く、今後はさらに発展して、各社のサービス特性・事業アセットを踏まえた取り組みや新たな保険商品が生まれる可能性もありそうです。
なぜ今「割り勘」「後払い」なのでしょうか。もともと「P2P」は対等な者同士 (peer to peer) を意味するネット用語です。やがて金融分野でも使われるようになりました。一般的な保険では、(年齢や性別などに応じて) 保険料を前払いするのが基本です。保険会社は集めた保険料を運用し、病気や死亡する人が想定よりも少なければ、多くを利益や蓄えとすることができるのです。いや正直、大儲けするのを前提に保険料が設定されていたのです。そこで登場したのが今回のP2P保険です。
実証実験が2021年1月末まで行われ、「1年間で加入者1万人」という目標を達成できるかどうかが事業継続の鍵になってきます。前述した通り、先行する中国のアリババ集団傘下の金融会社が手掛けるP2P保険「相互宝」は約1年間で1億人の加入者を集めました。欧米でもP2P保険を手掛ける新興企業が出てきています。デジタル技術などを駆使した新商品の相次ぐ登場は、既存の保険会社にとっては脅威となることでしょう。「透明性」や「簡潔さ」が特徴のP2P保険は既存の大手生保が主力とする「手厚く複雑な保障」には向いていないため、すぐに競合することはなさそうですが、ライフスタイルが多様化する中、シンプルでわかりやすい小口の保険が若年層などに受ける可能性は十分にあります。
ジャストインケースはP2Pの仕組みをがん保険以外にも広げ、大手保険会社と組む構えをみせています。もっとも、中国と異なり公的保険や民間保険が普及している日本でがんのP2P保険が広がるかどうかは未知数でもあります。