肺MAC症に関する基礎知識 (まとめ)
肺MAC症は非結核性抗酸菌症の一種です。
「肺MAC症?」「非結核性抗酸菌症?」…
あまり馴染みのない言葉で、なんだか難しそうですねー。でもご安心を!
この記事は「肺MAC症の基本」をしっかりと学んでいただくべく、わかりやすく簡単にまとめています。以下、順を追って読み進めていくことで「肺MAC症」に関する必要な知識が自然と身についていくことでしょう。
肺抗酸菌症とは?
肺抗酸菌症は、「結核菌やMAC菌などの菌類によって引き起こされる感染症」のことです。この肺抗酸菌症の原因菌は大きく分けて2つ。一つはあの「結核」であり、もう一つがMAC菌を含む「非結核性抗酸菌」なのです。
非結核性抗酸菌症とは?
非結核性抗酸菌 (NTM)は、結核菌 (結核症)とライ菌 (ハンセン病) 以外…の抗酸菌の総称であり、現在100種類以上の菌が発見されています。
そして、非結核性抗酸菌症の8割強の患者さんたちはMAC菌が原因で、俗に言う肺MAC症に悩まされているのです。
非結核性抗酸菌 (MAC菌含む) は、自然環境中の水・土壌・動物の体内などに広く生息しており、この菌を含んでいる埃や水滴を吸入することによって感染する…と考えられています。
繰り返しになりますが、非結核性抗酸菌症患者のおよそ8割は肺MAC症です。MAC (Mycobacterium-avium complex) と呼ばれる菌が肺の中に入り、身体を痛めつけているのです。
感染者が急増している肺MAC症
肺MAC症は、MAC菌 (結核菌によく似た菌) の感染によって起こる肺の病気です。近年、CT検査や遺伝子検査の普及によって、発病している人が多いことが明らかになってきています。
特に日本では際立って増えてきており、肺MAC症が原因で亡くなる人の数は年間1000人以上…とも推測されています。
急増している原因としてまずはじめに考えられるのが風呂場での感染です。42℃前後の温度で繁殖しやすいMAC菌にとって、気密性の高いお風呂場はまさに最適な環境なのです。
MAC菌は、土や水の中、浴槽のお湯の注ぎ口やシャワーヘッドのぬめり、湯あかにいます。こうした場所でしぶきや霧状の水滴、土ぼこりなどが発生し、その中に棲むMAC菌を肺に吸い込むことで感染するのです。
肺MAC症の症状
MAC菌は、結核菌と比べて病原性が弱いため、感染してもしばらくは症状のない状態が続きます。その後肺の炎症が進んでいき、咳・たんなどの症状が現れます。
ただし、結核とは異なり人から人への感染はありません。
肺MAC症が進行すると、発熱・倦怠感・食欲低下・体重減少といった症状が起こり、さらに進行すると酸素療法が必要になるほど呼吸困難で危険な状態に陥ることもあります。
こうして、10年以上の長い時間をかけてゆっくりと進行していくのです。
結核と肺MAC症の違い
結核菌は人への感染性が強いため結核病棟への入院対象となりますが、、、
非結核性抗酸菌は人に感染することがないため、一般病棟あるいは外来にて治療を行うことになります。
治療法は?
非結核性抗酸菌症は、以前は陳旧性肺結核症、慢性閉塞性肺疾患 (COPD)、肺切除後やじん肺、間質性肺炎などの既存の肺疾患を有した男性に多くみられていました。
しかし近年は、過去に基礎疾患のない中年以降の女性の増加が顕著です。ただし、残念ながら「なぜ女性に多いのか」はまだはっきりとはわかっていません。
★ 治療方法
現在、結核は (一部の多剤耐性結核を除いて) 治癒が期待できるようになってきています。一方で、非結核性抗酸菌症は (残念ながら) 治療法が確立されていません。
そのため、(結核と類似した病気という理由で) 抗結核薬を含めた3~4種類の薬を用いて治療を行っています (手術を行う場合もあります)。
ただし、経過の長い病気であり、かつ自然軽快することもあるため、軽症の時には経過観察のみを行うことも少なくありません。
30年以上も経過観察のみで過ごされた方もいらっしゃいます。つまり、治療をするにしても経過観察するにしても、この病気とは「長く付き合っていく」覚悟が必要でもあるのです。