ロナウドも今浪も患う「甲状腺機能低下症」の原因と症状
「甲状腺機能低下症」は放置しておくと怖い病気です。しかし一方で、適切な治療さえ施していれば、日常生活に何の支障もない病気でもあるのです。
一般的には高齢の女性に起こりやすく、「出産により免疫を抑えるホルモンを分泌している胎盤が外れることをきっかけに」発症することの多い、誰もがなり得る病気なのです。
甲状腺はのど仏のすぐ下に位置し、重さ15g大きさ5cmほどの臓器。ここから分泌される甲状腺ホルモンは体の新陳代謝を調節する働きがあります。
具体的には脈拍数や体温、自律神経の働きを調節したり、エネルギーの消費に関与したり、子供の成長や発達、大人の脳の働きを維持するのにも役立っているのです。
この甲状腺の働きが低下して、甲状腺ホルモンの分泌量が低下すると・・・
様々な症状が引き起こされてしまうのです。
(逆に、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される場合は「甲状腺機能亢進症」と呼ばれています)
今回は、「甲状腺機能低下症」の原因や症状などを、プロ野球ヤクルト・スワローズの今浪選手やサッカー元ブラジル代表のロナウド選手の体験談を交えて解説してみたいと思います。
「甲状腺機能低下症」の原因で最も多いのは、慢性甲状腺炎である橋本病です。また、甲状腺がんの手術で甲状腺を摘出することにより発症することもあります。
他にも、ヨウ素が欠乏していたり、健康食品や海藻類を過剰に摂取したりすることにより発症することもあります。
以下でもう少し詳しくみていきましょう。
① 慢性甲状腺炎
甲状腺に慢性の炎症が起こる病気を慢性甲状腺炎といいます。これは、この病気を発見した医師の名前をとって「橋本病」とも呼ばれています。
そもそもこれは、自己免疫の異常が原因で起きる炎症です。リンパ球が、甲状腺組織を攻撃して起こるらしいと言われています。
② 甲状腺機能亢進症と甲状腺ガン
「甲状腺機能低下症」は、甲状腺機能亢進症の治療中に放射性ヨウ素や薬を使用することによって、甲状腺ホルモンを作る機能が損なわれたり、
甲状腺ガンの手術で甲状腺を摘出することにより発症します。
③ 健康食品・海藻類の過剰摂取
根昆布のエキスなど一部の健康食品を常用していると、大量に含まれるヨウ素によって甲状腺の働きが抑えられてしまい、甲状腺機能低下症になることがあるようです。
海藻類は、低カロリーでミネラルも豊富なのでダイエットや美容のためによく食べられていますが、ヨウ素が多く含まれています。
そのため日本では、海藻類 (昆布・わかめ・海苔・ひじきなど) の取り過ぎで、甲状腺機能低下症になっている人が少なくないようです。
④ 先天性の疾患
クレチン症という先天的な疾患が原因の場合もあります。このケースでは、成長や発育、知能発達に障害をもたらすため、早期に発見し治療することが大切です。
日本では、4,000人に1人の割合で見つかっているそうです。
⑤ うがい薬
ヨード系のうがい薬を常用していると、大量に含まれるヨウ素によって甲状腺の働きが抑えられ、発症してしまうことがあります。この場合は、使用をやめれば治るそうです。
「大げさじゃなく、死ぬんじゃないかって思うぐらい辛かった。この病気を知らなかったので…。何もする気力が起こらないし、人に会いたくない。うつに似た症状になりました。」
「甲状腺機能低下症」は甲状腺ホルモンの分泌が低下して活動性が低下する病気です。眠気、無気力、抑うつ、記憶障害などの症状が出て、皮膚がむくみ脱毛することもあります。
発症の比率は圧倒的に女性に多いのですが、今浪選手はこの病気に悩まされたのです。もし治療が遅れていたら、死亡していたかもしれないのです。
初めは、倦怠感が抜けず風邪のような症状を感じていましたが、体温計で測ると35度台と平熱より低い。「あれっ、おかしいなー。年(32歳)のせいかな?」とそのまま練習に打ち込みますが…
次第に体重は増え、両眼がむくみ、立っているのも辛くなっていったのです。
しかしチームはCS進出を狙う大事な時期。今浪選手は一塁、遊撃、三塁を守り、得点圏打率・344と絶好調。10球以上ファウルで粘る打席も珍しくありません。
チームにとって、攻守ともに替えのきかない大切な選手なのです。川端、雄平と主力選手が故障で離脱した台所事情もありました。
「必要とされている以上グラウンドに立ち続けたい!」
病院に行く選択肢はなかったようです。
そんな思いとは裏腹に、体調は悪化の一途をたどっていきます。「バットを振ることも辛い…」
そして、ついには全身を疲労感が襲い、足が前に出なくなってしまいます。体が限界を超え、悲鳴を上げていたのです。
・・・
救急外来で病院へ行っても、問診票の記入欄には名前しか書けない状態…
「何を書けばいいか浮かばない。年齢もなぜか31と書いていた。それすら覚えていない。」
記憶障害の症状でした。診断名は「甲状腺機能低下症」。「ドーピングに引っかかるから薬は飲みたくない」と医師に訴えますが、それどころではありません。そのまま、自宅に帰らず緊急入院となったのです。
それから1週間は病院でほぼ寝たきりの生活です。投薬治療で体調は回復に向かっていきましたが、筋力は落ち、心は滅入っていきました。
「何もする気が起こらない。もう一度野球できるのかなー?」
登録抹消された際の球団発表は「全治不明」。しかし、今浪選手はわずか3週間で1軍に復帰したのです。
「球場に行ってみんなとバカ話できる環境になってだいぶ楽になった。周囲に救われました。」
現在、甲状腺の数値は正常の範囲内に収まっていますが、体調は万全でなく、投薬治療は一生続くといいます。
故障を押しての強行出場と病気は違います。我慢強く責任感の強い今浪選手だからこそ、無理をしてほしくないと強く願うばかりです。健康にまさる幸福はないのですから。
サッカー元ブラジル代表のFWロナウドは現役引退会見の際、こう話していました。
「思うように体がついていかなくなった。以前はスピードでDFを抜けたが、痛みがキャリアの最後を早めた。」
そして、晩年に肥満を批判されたことに対しては、「これだけは言っておきたい」として、「肥満の原因は甲状腺機能低下症だった」と告白したのです。
代謝低下で体重のコントロールが困難だったことを明かし、「ドーピングになるため薬を摂取できなかった」と涙ながらに訴えたのです。
「批判も受けたが、そのたびに強くなった。素晴らしく感動的なサッカー人生だった」と語ったロナウド。バルセロナやRマドリードなどの名門で活躍し、W杯通算最多の15得点を挙げた「怪物」は、こうして選手生活に幕を下ろしたのです。
寒がりになり、元気がなくなり…