昭和のヒーロー「千代の富士」(ウルフ)を襲ったすい臓ガンはなぜ増え続けるの?
「小さな大横綱」として国民的人気を博した元横綱”千代の富士” の九重親方が2016年7月31日午後5時11分、すい臓がんのため亡くなりました (享年61歳)。
「ウルフ」の愛称で親しまれ、名力士として一時代を築き、引退後は親方として後進育成に尽力。しかし、あまりにも早すぎるヒーローの死は突然やってきたのです。
私自身、とてもショックを受けました。何と言っていいのかわかりません。ただただ悲しさと悔しさでいっぱいです。
千代の富士の命を、61歳の若さで奪い去ってしまった「すい臓がん」…絶対に許せません!
そこで今回は、前半を「千代の富士」について、後半を「すい臓がん」について書いてみました。少し長めの記事にはなりますが、必要ないところは読み飛ばしてもらって結構です。どうか最後までお付き合いください。
「角界のプリンス」と呼ばれた人気大関貴乃花 (のち二子山親方、故人) を引退に追い込み、その息子で「若貴ブーム」の主役だった貴花田 (のち横綱貴乃花) に敗れたことが土俵を去るきっかけとなった千代の富士。彼には、こうしたこの親子との世代交代のドラマがありました。
若い頃の千代の富士は、体重が100キロにも満たない体で強引に投げを打っては肩の脱臼を繰り返していました。しかしその後、速攻相撲に変貌し頭角を現してきたのです。
迎えた1980年九州場所3日目。三役に定着し、大関の声も掛かり始めた25歳の千代の富士は、30歳の大関貴乃花を一方的に力でねじ伏せ破ったのです。
「タバコをやめれば体重が増えて強くなれるよ」
同じ軽量で苦しんだ貴乃花からのこんなアドバイスを受け、禁煙した千代の富士はその後大活躍していくことに。
・・・
それから10年経った1991年夏場所初日。31度の優勝を重ねた35歳の千代の富士は、勢いある若手力士貴花田 (18歳) と対戦することになります。この取り組みで、千代の富士は終始後手に回り、若武者の寄りに屈してしまったのです。
その2日後、千代の富士は貴闘力に敗れて引退を表明。出世のきっかけを作ってくれた大恩人の息子を後継者と見定め、潔く土俵を去っていったのです。
※ 1989年に角界で初めて国民栄誉賞を受賞
元横綱・朝青龍のドルゴルスレン・ダグワドルジさん(35)は訃報を受け、ツイッターに追悼のコメントを寄せました。「悲しい悲しいな涙が止まらない…憧れの力士、角界の神様、横綱たちの横綱よ〜〜悲しいな」(原文のまま)
若き日のダグワドルジさんにとって「千代の富士」は、憧れでありとてつもなく大きな目標だったのです。
歌舞伎俳優の市川海老蔵さんは、千代の富士死去の一報に驚きを隠せない様子で、「大好きだった!子供の頃見た最強で最高にかっこいい横綱だったから」と強かった現役時代の横綱・千代の富士への思いを綴っています。
元大関で歌手の増位山太志郎さん(67)は、
「最後に自分の歌『男のコップ酒』を歌う前に聞かされて、ショックで思わず声が詰まった。すい臓がんとは聞いていたがそこまで悪いとは…」と神妙な面持ち。。。
芸能界きっての好角家として知られるアーティストのデーモン閣下は、「実にカッコ良い力士だった。『古きよきお相撲さん』像とは一線を画す、大相撲界に『アスリートの側面』を持ち込んだ人、という印象だ。結構ドラマティックな土俵人生ではあったが『浪花節』的な感じはせず、クールさが漂う角界では珍しいタイプの人であった」
「おそらく今までの全ての横綱の中で最も四股の足が綺麗に高々と上がる手数入りでの所作は、鋭利で美しかった」
「大鵬、北の湖、千代の富士…そういえば、千代の富士の連勝が53で止まった大乃国戦が、大相撲の『昭和の最後の一番』だった。今上天皇陛下の『生前譲位』の話が出てくるような時代だ。昭和は遠くなりにけり、の感深し」とその死を悼んでいます。
◇九重 貢、元横綱千代の富士
本名は秋元 貢(あきもと みつぐ)。1955年(昭和30年)6月1日生まれ。北海道松前郡福島町出身。初土俵は、1970年の秋場所。そして1975年秋場所で新入幕に。1981年秋場所から横綱に昇進。通算成績は1045勝、優勝回数31回。
2015年の名古屋場所を休場し、膵臓(すいぞう)がんの手術を受けていたことが公表されていました。
現役時代、その技の美しさと圧倒的な強さに憧れを抱いた世代の一人として、心から哀悼の意を表します。
九重親方は、2015年にすい臓がんの手術を受け、その後は職務に復帰したものの最近になって転移が見つかったとされています。
実はこの「すい臓がん」という病気は、検査や治療の技術が進歩した現代においても治癒が難しい、とても「やっかい」ながんなのです。
すい臓がんで亡くなる人は増え続けている!
がんで亡くなる人の数自体は高齢化の影響もあり増え続けているのですが、年齢の影響を排除するとがん全体の死亡率は年々減り続けているのです。
しかしながら (余り知られていないことですが)、「すい臓がん」は例外なのです。その他のがんは減っているのに、「すい臓がん」は増え続けているのです。
いったいなぜ?
それは…早期発見が難しく悪化しやすいからなのです。
すい臓はX線検査(レントゲン)では調べることができません。また、胃や大腸などと違い口と直接つながっていないため、胃カメラなどで調べることもできません。
さらに困ったことに、すい臓がんになっても初期には強い自覚症状がないと言われています。そのため、すい臓がんは早期発見が難しく、発見されたときにはすでに周りの臓器に転移してしまっており、治療が難しいケースも多いのです。
詳しい理由は不明です。ただ、糖尿病や慢性すい炎などの病気の患者さんでは、すい臓がんになるリスクが上がるかもしれないと推測されています。
運動不足や食生活の変化などにより、近年、糖尿病になる人は増えていますので、こうしたことが「すい臓がん」増加の背景にあるのかもしれません。
腹痛、黄疸(皮膚や目が黄色くなること)、腰背部痛、糖尿病の悪化、食欲不振、体重減少、全身倦怠感などが挙げられます。
- 家系にすい臓がん患者がいる人
- 高齢の男性
- 糖尿病患者
- 胆石・胆嚢炎の既往歴
- 慢性膵炎の患者
- 喫煙家
- コーヒー嗜好家 (1日4杯以上)
- 肉食、加工肉を好む人
- 肥満
もちろん上記に該当するからといって、「すい臓がんになる!」と心配しすぎる必要はありません。でも、これほど検査や治療の技術が進歩した現在でも、亡くなる方の増加を防げない「やっかい」な病です。
上記の表に該当する方もしない方も、どうか少しでもこの病気に関する知識を持って下さることを切にお願いいたします。
現在、すい臓がんの早期発見を目指す取り組みが世界各地で進められています。日本でも、国立がん研究センターの研究グループがすい臓がんの簡易検査キットを開発中と報じられています。今後近いうちに、早期発見を容易にする検査法が見つかるかもしれませんね。
九重親方の次女でモデルとして活躍中の秋元梢さん(29)は、「お父さんの娘に生まれてきて本当に良かった」と涙ながらにコメントしています。梢さんはきっと、お父さんにウエディングドレス姿を見てもらいたかったはず。
近い将来、天国のお父さんに晴れやかな姿を見てもらえるといいですね!心よりそう願っています。