うつ病と誤解されがちな「若年性認知症」

 

一般的に認知症は高齢者に起こりやすい病気なのですが、近年は65歳未満で発症する「若年性認知症」も問題となってきています。働き盛りの世代が認知症になるわけですから、本人だけでなく家族への負担も非常に大きいものがあります。にも関わらず、その実態は明らかでなく支援も不十分。

50代から異変が起ころうものなら「更年期うつ」などと誤解されてしまいますが、実は「若年性認知症」の患者さんは日本国内に4万人以上もいるのです。潜在的にはもっといるものと思われます。

 

 

ところで皆さんは、アメリカ映画「アリスのままで」や渡辺謙主演の映画「明日の記憶」、あるいは中井貴一主演のドラマ「記憶」をご覧になったことありますか?これらは全て、若年性認知症をテーマにした作品となっています。興味のある方は是非一度ご覧になってみてください。

 

認知症の種類

認知症は一つの病名ではありません。認知機能にダメージを与える様々な病気を総じてそう呼んでいるのです。

 

 

高齢者の認知症としてよく知られている「アルツハイマー型認知症」は全体の1/4ほどでしかありません。残りの3/4はその他の病気に起因しているのです。中でも近年注目されているのが「前頭側頭葉変性症」

「若年性認知症」は、頭部外傷・感染症・脳腫瘍、そして「変性疾患」が原因だったりするのです。ちなみにこの「前頭側頭型認知症」は、脳の前方部分 (前頭葉や側頭葉) が縮むことによって起こります。

 

 

Aさんのケース

Aさん (50代男性) はある頃から少しずつ様子がおかしくなっていきました。自宅や会社の場所がわからなくなってみたり、物忘れが激しくなったり、「今日が何日か」わからなくなったり。。。

その後、脳神経外科で検査をしても原因はわからず。最終的に、54歳で依願退職せざるをえませんでした。

 

認知症と診断されたのは、退社をしてから3年も経ってからのことでした。認知症は脳の損傷なので年々記憶は落ち、運動機能も衰え、ご飯を呑みこむことさえ忘れてしまいます。

食卓でも自分の皿と人の皿の区別がつかなくなり、どうやって寝ていいかわからなくなり、さらに進んで食事も排泄も風呂もわからなくなりました。一番つらいのは本人ですが、世話する家族も本当に大変です。

 

 

それからおよそ10年後 (65歳) に亡くなったAさん。奥さんは、「今思えば主人は、47~48歳で発症していたのではないかと思います」と述懐されています。診断が遅れ適切な治療を行うことができなかった点は悔いが残ります。

発症が早いほど進行が早いとも言われている認知症。となれば、若年性認知症の場合は高齢者の認知症よりも一層の早期発見が必要となるのではないでしょうか。

 

 

認知症の症状

認知症の症状は、基本的な症状である中核症状と、それに伴う二次的な症状である周辺症状 (行動・心理症状) とに分けることができます。

 

 

中核症状は、程度や時期の違いはあっても、認知症の方には誰にでもみられるものです。一方で、二次的な症状は人によって現れ方が様々。誰にでもみられるというわけではありません。

中核症状では、「新しい記憶から薄れていきます」「時間や場所がわからなくなります」「判断力・理解力・思考力などが低下していきます」。

二次的症状では、「徘徊」「妄想」「幻覚」「不安」「焦燥」「抑うつ」「意欲の低下」「不眠」などが見られます (個人差あり)。

 

 

若者と高齢者の認知症の違いは?

 

🔵  発症年齢

若年性認知症の発症年齢は、平均50歳くらいです。

 


🔴  性別

女性が多い高齢者の認知症と違って、若年性認知症の場合は男性の方が少し多い割合になっています。

 


 

さらに、若年性認知症の場合、「更年期障害」や「うつ病」「精神疾患」などと誤解され、発見・受診が遅れてしまいがち!

加えて、働き盛りなこともあって経済的に困窮していったり高齢の親が介護をすることになったりと、家庭内での課題が非常に多くなってきます。

 

 

4万人を超える患者数

若年性認知症は、18~44歳で発症する若年期認知症と45~64歳で発症する初老期認知症に分かれます。これらを合わせると数万人はいると見られています。ずいぶん前に行われた調査でわかっているだけでも、4万人近い方々が若年性認知症の診断を受けています。

上述したグラフを見てもわかる通り、若年性認知症患者の6割強が「脳血管性認知症」と「アルツハイマー型」によるものです。

 

「脳血管性」は遺伝性が強く、くも膜下出血など脳卒中になりやすい家系の方が若くして陥る傾向にあります。一方の「アルツハイマー型」にも遺伝性はありますが、その原因の多くは (遺伝ではなく) わからないとされています。

そのほか、前頭葉や側頭葉が萎縮して起こる「前頭側頭型認知症」は、人格が変化したり反社会的な性格を帯びたりするという傾向がありますし、「レビー小体型認知症」は、幻視を見たり大声で寝言を言ったりするようになります。

 

 

おわりに

このように、「認知症」と一言に言ってもいくつかの種類があり、若年性認知症に関しては「アルツハイマー型」と「前頭側頭型」が多いとも言われています。いずれにしても、その原因やメカニズムはいまだ解明されていない部分が多く、ただ一つ確かに言えることは「早期発見が大事」だということです。

もちろん、脳の中に脳神経細胞の老廃物 (アミロイドβやタウなど) が溜まるのが原因…ということはわかっているのですが、では「そうならないためにはどうしたらいいのか」の解明は今後の課題でもあります。

 

「遺伝」「体質」「生活習慣」「「食事」などなど、原因はいろいろありそうです。とにもかくにも、(同じく脳機能が低下する) うつ病と誤解され診断が遅れることのないよう、周囲の方はよく気をつけていただければと思います。

認知症の方にうつ病の治療を施しても何の効果もありませんので、うつの治療を半年続けて改善が見られなければ「認知症」を疑った方がいいかもしれません。

 

 


最終更新日:2019/07/15