寄生虫妄想について【まとめ】

 

「体内に何らかの虫が存在し、チクチク・ムズムズするような感じ」がする。でも、皮膚科を受診し診察・検査を受けてみると「虫はいませんね」と言われてしまう。こうした症状はいったい何が原因で起こっているのでしょうか?

ダニ・日光・衣類・洗剤・カビ・食事などが原因のアレルギー反応なのでしょうか?それともストレス性のもの?あるいは薬の副作用なのでしょうか?・・・どうやらそうではなさそうです。

 

他に考えられるのは、「脳の病変」(ドーパミンやセロトニンなど脳内物質の何かが不足) だったり神経疾患だったり。。。さらには、妄想や幻聴を伴えば統合失調症の可能性もありますし、「更年期障害」「自律神経失調症」「むずむず脚症候群」の可能性だってあります。

「ないものがあるように神経に働きかけている」・・・そう感じるのであれば、一度「心療内科」や「精神神経科」などを受診されてみてください。

 

ただし、残念ながら「皮膚科」や「神経科」の医師に優秀な人材は少なく、信頼に足る人物に巡り会えることは稀です。根気よくセカンドオピニオンを求め、複数の医師の判断を仰ぐことを強くおすすめします。

今回は、上述した悩みの原因が「寄生虫妄想」だったと仮定して、寄生虫妄想についてまとめてみました。ぜひ参考程度に読んでみてください。

 

寄生虫妄想とは

寄生虫妄想とは、簡単に言えば「何らかの虫が体内に寄生している」という誤った思い込み (妄想・強迫観念) です。患者たちは、昆虫、蠕虫、ダニ、シラミ、ノミなどの生物に寄生されているという強い思い込みを抱いています。実際には虫は寄生していないのに、かたくなに「虫の寄生」あるいは被害を信じて疑わず、他人が訂正不能なほどの妄想を抱く場合、専門家はこれを寄生虫妄想と呼び、一種の病気として対応します。

この病気は本来「精神科」領域のものですが、精神科の受診を極端に嫌うのもこの病気の特徴で、「自分はそんな病気ではない」と思っているので病院には行かず、ひたすら皮膚科に行き続けるか、害虫駆除業者などに救いを求めることが多いようです。

頼られる側は何の対応・対策もしようがなく,かといってそのままにしておくとだんだん言うことが激しくなり、極端な場合、「虫を駆除するため」として家に火を放つなどの行動をとる人もいるようです。非常に厄介な病気と言えるでしょう。

 

当の本人にしてみれば、「痒み」や「這っている感覚」「刺激感」は非常にリアルです。この感覚を取り除くために患者は皮膚をかいたり、いじったり、削ったりし、それによって「ただれ」「潰瘍」が起きることもあります。皮膚に様々な化学物質や消毒薬を塗ることもあります。

人によっては、寄生が事実であることを証明するために、毛髪・皮膚・乾燥したかさぶた・ほこり・糸くずなどを標本として持参したりもします。以上のような症状の寄生虫妄想は、50歳以上の人 (特に女性) にみられることが多いのですが、非常にまれです。

 

患者の中には、病気不安症 (心気症:健康について過剰な不安を抱く病気) を持っている人や、メディアを通じて何らかの寄生虫疾患 (疥癬など) について知識を得た人、寄生虫に感染した人との接触経験がある人などが含まれています。

中には、統合失調症・うつ病・不安・強迫症などの精神障害がある人もいますが、ほとんどの患者はそうではありません。一方で、「薬物の乱用」「アルコール依存症」などが関係している場合もあります。

基本的には患者さんの正確な知識と冷静な判断に頼るしかない…というのが現状です。

 

 

原因

①  心理的要因 

離婚、死別、退職、仕事のストレス、欲求不満などが原因で、こうした症状を発症することが多いようです。この場合、一人暮らしの率は一般より3倍高く、また、定年退職後の発症も多くみられるそうです。

 


②  身体的要因 

偏執病的傾向、うつ病・分裂症などの精神的な障害、老齢に伴う脳委縮、脳血管障害などの脳障害、(アルコール・覚せい剤などの) 薬物障害、糖尿病、甲状腺機能障害、更年期などの内分泌障害、胃潰瘍などの内臓障害などが原因となる場合もあります。

 


③  その他 

アレルギー性皮膚炎やノミ・シラミなどの体外寄生虫の場合もあります。

 


 

患者さんが「体全体の寄生」を訴えたり、漠然と「虫」と言ったりするようであれば、一度きちんと「精神」「神経」系のプロフェッショナルに診てもらう必要がありそうです。

とはいえ、実際に痒みや虫が這い回る感覚を引き起こす原因が存在する場合も少なからず存在します。それは冒頭で述べた「アレルギー」「食事」「ストレス」「神経疾患」「薬の副作用」などです。

 

どれも、この症状の主原因となり得ます。これが「患者の訴えを軽く扱うべきではない」理由のひとつなのです。運悪くヤブ医者にかかってしまうと、ちゃんと診察もしないでいきなり「うつ病・統合失調」系のお薬を処方されたりします。

そうなってしまうと誤診もいいとこで、薬の副作用で新たな症状に苦しめられてしまうことに。。。くれぐれも下手な医師を信用しないでくださいね。

 

 

症状や訴えの特徴

「チクチクする」「ムズムズする」あるいは「チクッと刺すような感じ」「モゾモゾ、モソモソと動くような…」といった訴えが多いようです。多くの患者さんに、具体的に目に見えるような皮膚症状はなく、有る場合でも掻破痕を含む自傷性のものです。

「虫が寄生している」という妄想が極めて強く、虫の寄生についての話は執拗に繰り返しますが、それ以外のことについては全く関心を示しません。また、「自分は異常ではない」という思いが強いのか、否定されたり精神科の受診を勧めたりすると激怒します。

 

妄想上の虫を認めてくれる人を求めて医療機関などを巡る傾向もあります。症状がひどい場合には、虫の除去のために「体・手・髪を頻繁に洗う」「殺虫剤を皮膚に塗る」「衣服を頻繁に洗う」「熱湯消毒する」など、潔癖症的な極端行動を示すことも。

さらには、「家の掃除をしつこく繰り返す」「殺虫剤を家中にまき散らす」「ゴミの検査依頼を繰り返す」「衣服・絨毯・家具を捨てる」「引っ越しを繰り返す」といった行為も。

 

 

診断

アレルギー、皮膚炎、実際の寄生虫など、現実の皮膚病の多くでも痒みが生じるため、「寄生虫妄想」の診断は非常に難しいとも言えるでしょう (安易に軽々しく判断はできません)。また、患者が皮膚をかいたり化学物質を使ったりすることで生じた皮膚のただれや炎症が他の皮膚の病気と似ていることもあります。

診断は、身体診察の結果と薬物使用歴や精神障害などの病歴に基づいて下されます。実際の寄生や他の病気の可能性を否定するために、皮膚の擦過物を採取して調べたり、ときには血液検査を行うこともあります。実際の寄生の可能性が否定された場合は、「寄生虫妄想」が精神障害の一部であるかどうかを判断する上で、精神科医による診察が有用となります。

 

 

感応

身近な人 (家族など) に感染する場合もあります。精神科ではこれを「感応」と言い、同じ妄想を共有することを言います。1人が「ダニがいて痒い」と言っただけで暗示にかかってしまい、「自分も痒い」ような気になってしまうのです。

したがって、自分だけでなく家族も同じ被害に遭っているからといって「ダニなどが原因である」とは断定できないのです。

 

 

治療

寄生虫妄想の治療は、皮膚の病気を専門とする医師 (皮膚科医) と精神科医が協力して行うことが最善となります。皮膚科医は徹底的な評価を行い、実際の寄生虫が存在しないことを確認します。その後、患者を精神科医に紹介し、妄想の治療を行います。

リスペリドンやハロペリドールなどの抗精神病薬が非常に有効です。しかし、患者はしばしば精神科医の受診を拒み、代わりに想像上の寄生虫を根絶する治療を求めて多くの医師を受診しますが徒労に終わります。

 

 

おわりに

以上、どちらかいうと精神的な要因を中心にいろいろ述べてみましたが、もちろん、必ずしもそうとは限りません。本当に皮膚に寄生虫がいたりダニなどによる刺咬症の可能性も否定できませんし、他の内因性の疾患の可能性もあります。

ときに複数の病院をたらい回しにされたり、安易に「寄生虫妄想」と決めつけられ「危険な薬物」を処方されたりするかもしれませんが、けっして焦ってはいけません。

 

それこそ、うつ病でもないのに抗うつ剤などを処方されてしまっては後々大変なことになり兼ねません。まずは「病名がはっきりわかるまでどんなに時間をかけてもいい」と割り切って下手に薬に手を出さないことが大事です。

その上で、あまり神経質にはならず、おおらかな気持ちで日々を過ごしていきましょう。ストレスが一番よくありませんからね。

 

最後に、中途半端な皮膚科医の診断で、いきなりタンドスピロンクエン酸塩錠 (セロトニン作動性抗不安薬) を処方されたという事例も耳にしています。

その結果、肝機能障害などの副作用被害を受けてしまったという悲惨なケースも。ご家族の皆さんは、「高齢者の心の病気だ」と簡単に考えすぎないように気をつけてくださいね。