ガールズトークが苦手な女性のアスペルガー症候群
アスペルガー症候群は、男女でその特徴の現れ方に違いがあります。そもそも、男性に多いとされてきたアスペルガー症候群ですが、近年、実は女性にも少なくないことがわかってきました。患者さんたちは、時に男性よりも深く、複雑な悩みを抱えているようなのです。
一般的に、
アスペルガー症候群といえば
- 空気が読めない
- オタク気質
- 理系
といった男性を思い浮かべる方が少なくありません。
しかし、同じアスペルガー症候群であっても、女性の場合はその特徴がかなり異なっています。
一見、コミュニケーション能力にはそれほど問題がないように思えても、独特の脳機能に由来するストレスを抱え込み、子供の頃から「慢性疲労」「慢性疼痛」「概日リズム睡眠障害」など、原因不明の身体症状を抱える人が少なくないようです。
また、記憶や感覚の処理が普通の人とは違っていて、解離症状を示したり、独特なパニック症状「メルトダウン」や過去が生々しくフラッシュバックする「タイムスリップ現象」に悩まされる人もいます。
「なんか、お化けみたいな、未確認物体みたいなものに対する恐怖なのかなあ…」
対人関係が苦手だというA子さん (20代女性)は、自身の感覚をこう表現しています。ちなみにA子さんは、笑顔が印象的な一見普通の女の子です。
ただ、話し方が少し幼く、会話中、目を合わせることはほとんどありません。その理由を聞いてみると、
「怖いから、あまり(目を)合わせたくないなぁ、という……」
というわけで、
近年注目され始めたじょせいんアスペルガー症候群の特徴について、以下でもう少しみてみましょう。
① アスペルガー症候群に見えない
まず、冒頭で述べたように、男性と女性ではその症状の特徴が異なります。男性の場合は「コミュニケーションが苦手」「オタク気質」だったりするのですが、女性の場合は一見、アスペルガー症候群とは思えないことが多いそうです。
一般に、アスペルガー症候群は女性よりも男性に多いとされてきましたが、もしかすると、診断基準が男性向けだったため、女性のアスペルガー症候群が見過ごされていただけなのかもしれません。
② 原因不明の体調不良になりやすい
この点についても上述していますが、「睡眠障害」をはじめとする体調不良に悩まされているアスペルガー症候群の女性たちのなんと多いことか。
アスペルガー症候群の女性は、男性とは違って、ある程度の社会性があり、コミュニケーションもむしろ大人びているので、子どもの頃はアスペルガー症候群だと疑われることはありません。
しかし、学校に行き始めると、コミュニケーションの問題より先に、原因不明の身体症状という形でストレスが表面化することが多いと言われています。
朝起き上がれないくらいの疲労感に悩まされることもあるんだとか (慢性疲労症候群)。
他にも、
摂食障害や線維筋痛症、統合失調症、難治性心身症などに悩まされている人が多いようです。
③ コミュニケーションの幅が狭い
女性の場合、友達がいないというわけではないのですが、内気で交流の幅が狭いことがあります。コミュニケーションができないわけではないのですが、ガールズトークが苦手で、何気ない世間話やおしゃべりが得意ではなく、話のペースについていけないこともあります。
女性同士の会話に求められる暗黙のルールがわからず、知らず知らずのうちに嫌われたり、のけものにされたりしてしまうこともあります。
④ 考え方が男っぽい
ガールズトークが苦手なこととリンクしていますが、考え方が男っぽいため、女性的な付き合いが苦手でもあるようです。
例えば、同年代の女性がファッションやアイドルに夢中になる中、自分自身はそんなことに興味が持てず、一般に男性が好みそうなマニアックな話題に関心があったりします。
なので、女の子のグループとは仲良くできなくても、男友達とは楽しくやっていける人もいます。
⑤ 過敏 or 鈍感
アスペルガー症候群の女性たちが様々な体調不良に悩まされやすい理由の一つは、五感が一般の人たちとは異なるからです。
例えば、視覚が過敏でまぶしく疲れやすかったり、聴覚が過敏でちょっとした騒音や子どもの声、テレビの音などが苦痛に感じることもあります。人が気づかないような匂いに敏感な人もいます。
⑥ 感情が溢れてパニックになることも…
感覚過敏の問題は、パニックになってしまうという別の問題にもつながります。
少し表現に語弊があるかもしれませんが、脳のフィルター機能がうまく働いていないため、身の回りのあらゆる情報がそのまま脳に流れ込んでくるので「圧倒され」「苦痛を感じる」のです。
男性のアスペルガー症候群では、感情がメルトダウンすると暴力をふるったり逃げ出したりしますが、女性のアスペルガー症候群では落ち着いて考えられなくなり、急に泣き出したり、茫然自失の状態になったりするようです。
人によっては、リストカットなどの自傷行為を行なって意識を飛ばす人もいるようです。
ただ、
※ 信頼できる医療機関で、適切な処置を施してもらいましょう
⑦ 自分だけの世界観を持っている
想像力豊かなアスペルガー症候群の人の中には、頭の中に自分だけの世界を持っていて、苦しくなった時、そこへ逃避するようにしている人もいるようです。
コミュニケーションの行き違いによる疲れを癒すために、ペットやぬいぐるみに語りかけるケースもあります。逆にいえば、この想像力の豊富さをうまく活用して、クリエイターとして大活躍しているアスペルガー症候群の女性もいるようです。
⑧ トラウマを抱えやすい
アスペルガー症候群の人は記憶の処理方法が特殊で、トラウマ経験を抱え込みやすいこともわかっています。例えば、過去の嫌な体験をまざまざと思い出し、そのときの感情そのものを再体験してしまう特殊なフラッシュバック「タイムスリップ現象」が生じることがあります。
こうした記憶の特殊性のためか、いじめ、虐待、災害、犯罪などのトラウマ記憶が強く残りやすいので、場合によっては医療的なトラウマ処理が必要になることもあります。
⑨ こだわりが強く、変化が苦手
アスペルガー症候群の人は、何事も常に一定であることを好むため、「融通が利かない」「生真面目」「扱いにくい」と思われがちです。このような特徴から、女性の場合は思春期の体の変化に戸惑いを覚え、強いストレスを感じて体調を壊してしまうこともあります。
また、変化が苦手なため、結果として視野が広がりにくくなり、特定の話題以外では会話が弾まなくなります。
しかしその分、狭い範囲のことを徹底的に長期間研究するような仕事には向いていて、研究者として成功しているアスペルガー症候群の女性もいます。
アスペルガー症候群は発達障害の一つで、生まれながらの脳の機能障害が原因とされています。これまでは、主に男性に起こり、男女比率は9対1とされてきていました。
ところが、実は、男性2、女性1の割合で女性のアスペルガー症候群も少なくないことがわかってきています。
「女性の場合、男性よりも社会性が育ちやすく、集団の中でそれなりに活動できることが多いため、周囲に気づかれにくく、結果として、一人で悩みを抱えてしまう」傾向にあります。
ただ、上述した通り、彼女たちは基本的に友だち付き合いや集団生活が苦手なのです。そのため、対人関係の構築や意思疎通などに悩むことが多いということを覚えておきましょう。
つまり、中学から高校の思春期において、ガールズトークについていけないことが苦痛で苦痛でたまらないのです。
残念ながら、現状では女性のアスペルガー症候群に詳しい医師は少なく、専門的な医療機関もあまり多くないようです。
特に、慢性疲労、胃の不調、月経前緊張症などの身体症状で内科や婦人科を受診したり、ストレスや睡眠障害などで精神科を受診したりしても、おおもとにある発達障害に気づかれず、ずるずると治療が長引き、難治性とされることがしばしばです。
そこで、原因不明の体調不良があるようであれば、一度アスペルガー症候群 (発達障害) も疑ってあげてほしいのです。
また、トラウマが生じそうな状況を未然に注意深く避けてあげることも大切です。
トラウマ経験に直面してしまった場合には、専門的な医療機関で、認知行動療法などの適切な処置を受ける必要があるかもしれません。
ただ、これだけは覚えておいてください。
アスペルガー症候群は、病気ではなく、生まれつきの脳の傾向なので、治療したり変えたりすることはできません。
そもそも、アスペルガー症候群は「障害」ではないので、治さなければいけないわけでもありません。
自分の特性をうまく活かせる環境に身を置けば才能ともなりうるのです。