親の介護で後悔しないために!認知症を遅らせる「音楽療法」のススメ
老人医療に優れている長寿国日本には、『音楽回想療法 』と呼ばれる心理療法が存在し、認知症の進行を遅らせる手法として取り入れられています。
今、親の介護問題は深刻な状況です。子や孫にもそれぞれの大切な生活があります。誰もが直ちに同居介護できるとは限りません。
そこで、親世代に介護が必要になったときの現実的な対処法、認知症の進行を遅らせる音楽療法、自分自身が後悔しないために持っておくべき心構えなどについて考えてみましょう。
介護が必要な人には「こうしてほしい」、介護する側には「こうしてあげたい」という希望があります。ただ、「できないことがある」のも事実です。
親子であっても、そこに無理があれば関係は破綻してしまいかねません。
介護というこれまでとは違った形で親に向き合う必要が出てきた場合、必ずしも “ベスト”ではなく、“ベター”の介護で親も自分も周囲も納得するようにしていかなければならないのです。
親の生活を守り、自分の生活を犠牲にすることなくできる限りの“ベター”な行動をとることで、双方のストレスを減少させる必要があるのです。
「なんでもやってあげるよ」ではなく「これならできるよ」という介護姿勢が大事なのです。
ただ、これを考えるとき、親と自分の自己都合だけでなく、医師やケアマネージャーなどの専門家、得られると思われる公的な補助内容、ほかの家族の協力などから総合的に判断する必要があります。
介護する側は、まず公的機関に問い合わせたり、ネットなどで十分な情報を集めましょう。
このベターな介護は刻々と変化していきます。定期的に見直す必要があることも全員で確認しておきましょう。
これは、1963年にアメリカの精神科医ロバート・バトラー博士によって創始された心理療法です。
バトラー博士は、高齢者にとってイキイキと暮らしていた時代のことを回想することは「自信」や「自己肯定感」を回復させ脳を活性化させる、さらに過去の懐かしい思い出を誰かに話すことで脳が刺激され、精神状態を安定させる効果が期待できると提唱しました。
以来、欧米を中心に高齢者の抑うつ感の改善・認知症の予防・進行の抑制に効果のある心理療法として発展し、日本でも国立長寿医療研究センターでその有効性が検証されています。
「認知症が治る」というほどの劇的な効果が期待できるわけではありませんが、やらなかった人よりは認知症の進行を遅らせることができ、表情も柔らかくなれるという意味で、在宅でも取り入れていただきたい認知症の対症療法の一つです。
この回想法を実施する上で、例えば、高齢者の方が子どもの頃に遊んでいた玩具や折り紙などを用いて、夢溢れていた少年少女時代を回想してもらう方法もあります。
当時観た映画をDVDで鑑賞してもらい、パートナーと出会った頃を回想してもらうのもいいでしょう。
それでも、“105歳の現役医師”として名高い日野原重明先生によれば、そういった方法にも勝る「回想法」は『音楽回想療法』なのです。
「音楽はいろいろな出来事と結びつきやすく、特に高齢者の記憶を再生し回想する手段として用いられます。回想に使われる方法としては写真や絵、草花なども用いられますが、音楽の強い情緒性が特に長期記憶と結びつきやすいため、『音楽回想療法』は特に優れた回想法になるのです。」
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● 重度の認知症にも関わらず、『北国の春』を聴いてにっこりと微笑んだ父
● 美空ひばりの歌を楽しそうに歌う認知症の母
高齢者たちが好きだった曲をかけてあげることで、微笑む回数が増え、食欲も若干回復し、家族もみな嬉しくなるのです。
音楽の強い情緒性が、イキイキと生きていた時代の記憶を呼び覚ましたのかもしれませんね。
『音楽回想療法』に代表される各種回想法は在宅で誰でも実施することができますが、次の点には注意してください。
(1)重度の認知症患者の方には向かない場合もあるので、その場合は無理に続けないこと
(2)回想が患者にとってつらい記憶を呼び起こしているように見えたらすぐに中止すること
(3)回想療法を患者の実生活にどのように活かすかということを常に考えて実施すること
認知症患者家族をお持ちの方には、以上の点をよく心にとめた上で「回想法」特に『音楽回想療法』を実施してみていただきたいと思います。
介護を続ければ、「もっともっと」と求められ、追い詰められ、自分の生活を少なからず犠牲にして頑張っても認めてもらえないことに苦しむことになりかねません。
介護は人間の欲と似ています。今求めていることがかなっても、必ず「もっと」が現れます。
だからこそ、ベストやパーフェクトを目指すよりも「ベター」を心がける方が、「みんなが満足を感じられる介護」に繋がりやすいのです。