「心の病気」は親から子へと遺伝する?
子どもは両親の遺伝子を受け継ぐものです。遺伝子 (DNA) の半分は母親から、残り半分は父親から。その遺伝情報によっては、時に何らかの病気の原因になる可能性もあります。
ガン、薄毛、内臓疾患などなど…
ここでは、「心の病気」の遺伝的側面をみていきたいと思います。
心の病気は、様々な複数の要因がネガティブな方向に相互作用した結果として発症します。つまり、絶対ではありませんが、親から子へ遺伝することも十分あり得るのです。
もしも遺伝子の一部に通常とは異なる何らかの変異があれば、それはその人の個性と見ることもできますが、場合によっては「心の病気」の発症と関連深いものもあります。
【結論】
家族の誰かが「心の病気」を発症した場合、より遺伝情報の近い人ほど同じ病気のリスクが高くなります。
例として、発症率が1%前後の心の病、統合失調症の遺伝的リスクについて考えてみましょう。
通常の発症率は1%ですが、遺伝的要因がもたらす脳内不調のため、仮に遺伝的リスクがあったとして、発症リスクが通常より10倍高まると仮定しましょう。つまり、この人の発症率は10%です。
次に、この人に親兄弟、従妹などを含めて血縁者が20名いたとします。通常ならば、この20名の中で「統合失調症」を発症する人はいないでしょうが、仮に、この20名がみな発病する遺伝的要因を持っていたとすれば、この20名の中で2名程度統合失調症を発症すると考えられます。
一般的に言えば、心の病気には何らかの遺伝的要因があるものです。
統合失調症の発症率は人口の約1%ですが、近親者の間では発症率がかなり高くなっている場合があります (あくまでも確率の問題で、必ずしも近親者の間で発症者が多いというわけではありません)。
では、アルツハイマー型認知症の場合はどうでしょう。
実は、アルツハイマー型認知症は、その1割近くにはっきりと遺伝的要因が認められています。関連する遺伝子もわかっています。例えば、ある染色体に起きたある変異は、50代での発症に関わり、また、ある変異は60歳前後での発症に関わるといった具合に、遺伝子の解明が進んでいます。
ただし、ここで注意していただきたいことは、遺伝的要因は心の病気の数ある要因のひとつにすぎないということです。全く同じ遺伝子を持つ一卵性双生児の場合であっても、一方が心の病気を発症したからといってもう一人も必ず同じ病気を発症するとは限りません。
例えば、統合失調症の場合、一卵性双生児のリスクは約50%で通常の50倍です。しかし、発症しない確率も50%。実際に発症するかどうかは環境的要因、心理的要因など、他の様々な要因によって決まるとも言えるのです。
もしも近親者に心の病気を発症した人が多く、遺伝的要因が考えられる場合、それをしっかり認識しておくことから始めましょう。
例えば、あなたの母親にうつ病の既往があったとします。何らかの心理的なショックがきっかけだとはっきりしている場合でも、通常は、遺伝的、社会環境的要因なども発症に寄与しているものです。つまり、あなた自身にも、「うつ病の遺伝的要因がある」ことは認識しておきましょう。
事前にわかっていれば、うつ病のきっかけになりやすいストレスに対して適切な予防と対策が出来るかもしれません。
人生の逆境時に、心の支えとなるような人間関係が作れれば理想的ですね。
また、アルツハイマー型認知症で必ず見られる病理学的所見があった場合でも、必ずしもアルツハイマー型認知症を発症するとは限りません。
ただ、脳梗塞など脳血管障害の既往があると認知症の発症が顕著に高くなるということはわかっています。
若い頃作文能力の高かった人はアルツハイマー型認知症の発症率が低いという報告があります。これは「普段から頭を使うことが認知症の予防になる」ということの裏付けではないでしょうか。
統合失調症やうつ病などの「心の病気」に関しても、該当のストレスを回避したり生活習慣をコントロールしていくことで、いくらかは予防・改善できるはずです。
いずれにしても、まずは自分自身が持っている可能性のある遺伝的要因を把握した上で、できるところから対策をしていくことが大切なのではないでしょうか。