軽度知的障害者たちの知られざる苦悩

 

厚生労働省の調査によれば、「身体障害者の数は約436万人」「精神障害者は約392万人」そして「知的障害者は約108万人」とされています (2018年度)。複数の障害を併せ持つ人もいるため単純に語ることはできませんが、「日本人のおよそ100人に1人が知的障害者」「全人口のおよそ7.4%が何らかの障害を有している」ということになります 。

しかしながらこの数字は、(65歳以上の知的障害者数が極端に少なく計算されていることからもわかる通り) 正確ではありません。事実、別の調査では「日本全国に知的障害者は200万人くらいいる」と報告されています。

 

支援を受けていない知的障害者たち

ちなみにこの200万人のうち、福祉サービスの恩恵を受けているのはたったの4分の1…つまり、「一見わかりづらい」軽度知的障害者の多くは社会から見過ごされているのです。そういった方々は、就職や社会に出る場面で挫折を経験することが多く、「いじめ」「孤立」「無力感」といったものを感じることになるのです。

そこに貧困や家族の問題などが重なると、住む場所さえない・・・という状態に陥ってしまうのです。性産業に身をおいてみたり、男性宅を転々としてみたり・・・とにかく、「生きていくのが精一杯」なのです。障害ゆえ、お金を騙し取られたり、暴力被害に遭ってしまうことも少なくありません。

 

「本当は普通に働きたかったけれど、仕事がわからず失敗ばかりだった。」「サポートしてくれる人がいなかった。」

この現実は、本人だけの問題ではありません。知的障害者の家族、特別支援教育に携わる先生、福祉関係者など、関わる全てのみなさんに、「サポート体制の課題」や「もっとこんな支援があったらいいのに」といったことを考えていただきたいのです。なんといっても150万人もの知的障害者たちが全く支援を受けず、「不自由」に暮らしているわけなのですから。

 

 

見た目は普通の母

父が亡くなり、精神遅滞 (知的障害)の実母 (70代) とは同居するようになって5年になります。母は見た目は普通なのですが、理解力が極端に低く、話のキャッチボールができません。よくずれたことをして周りをイライラさせます。

「おかしな独り言を言う」「声が無駄にでかい」「会話が成立しない」「空気を読めない」「幼児性が強い」「同じことばかり言う」などなど。

 

子供や動物に対する愛情はそれなりにあるようですが、「親らしいこと」「人並みのこと」があまりできず、実際、母からはものすごく迷惑をかけられてきました。(母の) 間違いを正しても全く理解されず、悔しい思いもしてきました。

正直私は大人になるまで、母が知的障害者だと分からずにいました。「何か変だなぁ」「人より理解力がないな」「天然ボケなのかな」とは思っていたのですが、その程度の認識です。私と同じような境遇で苦労をされている方、少なくないのではないでしょうか。

 

 

見た目は普通…でも「障害」に苦しんでいる人たち

Aさん (20代女性) は統合失調症と軽度知的障害で、精神科に通い、デイケアと作業所に通って就労に向けて頑張っています。

 

Bさん (30代男性) は知的や発達ではありませんが精神障害者で、医師からは「生活全般の援助が必要」「就労能力はない」と診断書に書かれています。

 

Cさん (40代男性) は知的障害を持っており、結婚歴なしの独身独り暮らしです。

 

みな、(身体障害者の方に比べて) 国や福祉からの支援が足りないと感じています。車椅子に乗っていたり白杖を持っていればわかりやすいのですが、特に軽度の知的障害の場合見た目には全くわからず、「問題ない」と判断され、就職も結婚もできなくはないのです。

見た目ではわからないから身体障害者とは明らかに扱いが異なります。「同情」はされません。「差別」はされます。嘲りの目で見られます。

 

ちなみに精神障害も、健常者と比べると知能は落ちるそうです。精神運動制止という症状があり、考えることが出来なくなります。みんながすぐに出来ることが出来ず、仕事を転々とし、無職になってしまうケースも少なくないようです。

そんな彼らは「悔しくてたまらない」と言います。外からわかる障害の人には国も世間も優しいのに、外から見えない障害者に対しては「変わってる」「頭が悪い」…だけなのです。

身体だけでなく、知的障害 (特に軽度の方、重度の方は「見てわかる」から)、発達障害、精神障害ももっときちんと国からの保護や支援が必要なのではないでしょうか。

 

 

おわりに

世の中には、あなたが思っている以上に多くの「知的障害者」たちが暮らしています。本人にその自覚がある場合、あるいはなぜかわからないけど全てがうまくいかなくて「鬱」や「心身症」「パニック障害」「抜毛症」「摂食障害」などになってしまうこともけっして珍しくはありません。

毎日不安で泣くしかなく、病院では「元気になった」と勘違いされたり、合わない薬を飲まされて症状がひどくなったり。。。本人も家族も大変なことになってしまいます。

 

軽度の知的障害者の多くは「これといった趣味」がありません。「食べて」「寝て」「なんとなくテレビを観て」過ごす日々の繰り返し。社会と深く関わることはなく、健常者からすれば「なんのために生きているんだろう?」「楽しみは何?」と思うことばかり。友達は皆無で、被害妄想っぽいところもあります。可哀想でなりません。

Dさん (30代女性) は、大人になってから先天性の知的障害障害(中度)軽度ギリギリと発覚しました。小さい頃から物覚えがかなり悪く、計算は現在もほぼできないそうです。読み書きは苦手で、運動神経は悪く、とにかく何をするにも不器用で、いじめはずっとありました。

「簡単な作業ができない」「説明がちゃんとできない」・・・呆れられ、無視されて、最終的には重度のうつを発症。。。

 

私の母に関していえば、超がつくほどのネガティブ思考で、同じことばかりを繰り返し、おバカさんで、テレビドラマのストーリーさえも理解できない。。。晩年の父は、そんな母と二人暮らしでかなり「辛い思い」「悔しい思い」をしてきたことだと思います (現在同居している私には、それが痛いほどわかるのです)。

 

しかしながら、庭いじりをしたり、(ガスや新聞の) 集金屋さんと話をしたりしている母の姿を見ていると、そこには彼女なりの幸せがあるのかもしれないなーとも思えてくるのです。もしもあなたの周りに、「もしかしたらこの人知的障害なのかも」と思える人がいれば、けっして煙たがらず、優しく接してあげてくださいね。だって彼らは、誰かとたわいのない会話をするだけでとても嬉しいのですから。