「認知症」と「妄想性障害」の違いについて

 

70代の母親に、ここ数週間「認知症かも??」と疑ってしまうような言動があり、病院に検査・入院を考えています。症状としては「被害妄想」…

「物忘れ」の類は一切なく、もしかしたら認知症ではなく、うつ病などの精神的な病気なのかもしれません。いったい何が原因で「妄想」が起こってしまっているのでしょうか?

認知症であれば脳に異常 (脳の萎縮など) があるはずですが、そうではありません。やはり一度、「心療内科」「脳神経内科」「精神科」「神経科」「老年精神科」といった専門医に診てもらった方がいいのでしょう。でも本人は「精神科」を拒絶します。

 

増え続ける「こころの病気」

こころの病気 (精神科の病気) には様々なものがあります。身体の症状 (食欲不振、疲労、頭痛、めまい、呼吸困難) や睡眠障害などがあり、自分が「こころの病気」だということを自覚できない場合もあります。それでも、医療機関を受診する精神疾患系患者の数は年間300万人超。。。

その内訳は、多いものから「うつ病」「統合失調症」「不安障害」「認知症」となっており、 近年、「うつ病」と「認知症」が著しく増加している傾向にあります。

 

 

認知機能低下のない「妄想性障害」

こうした背景もあってか、厚生労働省は2011年7月、「四大疾病」(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病) に精神疾患を加え、「五大疾病」とすることを発表しました。以降、精神疾患も重点的に取り組むべき疾患として扱われるようになりました。

事実、うつ病などの気分障害やストレス関連障害、アルコール・薬物依存症、発達障害などの患者さんが増え、街にはメンタルクリニックが多く開設されるようになりました。

これに伴い (薬の進歩もあって) 、精神科病院に入院する統合失調症者は減り、外来で継続的治療を受けることが可能になってきました。認知症の外来診療においては、「認知機能は比較的良いのに妄想が強い」という患者さんもいらっしゃいます。

 

 

「妄想性障害」とは

妄想性障害は、1つまたはそれ以上の妄想が一定期間続く精神疾患で、診断には「奇異でない妄想が最低1ヶ月続き、かつそれが他の精神疾患に依らないこと」が求められています。

「奇異でない」とはつまり、「誰かに命を狙われている」とか「嫌がらせをされている」「好意を寄せられている」といった実生活で起こり得る内容であるという意味です。「あり得るけどあり得ない」・・・ちょっと定義付けが難しいですね。

 

 

「妄想性障害」の種類

 

🔴 被害型

もっとも典型的なタイプで、「自分に何らかの被害が及ぼされる」と妄想しています。妄想性障害の被害妄想は、統合失調症のそれとは対照的に、「明快」「理論的」「被害のテーマがしっかりと体系化」されています。しばしば「不満」「怒り」などを伴い、妄想の対象を攻撃したり、裁判を起こしたりすることもあります。

 


🔵 嫉妬型

配偶者や恋人、愛人などが不貞をしていると信じ、激しく嫉妬する妄想です。通常男性に多く、突然出現します。時に激しく、自殺や他殺に至ることも。

 


🔴 被愛型

自分より社会的地位のある人が自分を愛しているという確信を抱く妄想です。このタイプの患者さんは、社会から孤立し引きこもりがちな方に多いようです。相手が愛を否定しても、「すべては愛を秘密にするため」と解釈する傾向にあります。

通常、女性に多いのですが、近年は男性にも多くみられます。ストーカーとなって「つきまとう」「攻撃する」といった行動に出ることも。

 


🔵 身体型

自分の身体に「何か異変がある」と思い込んでしまう妄想です。例えば、「虫にたかられているという妄想」「身体の一部が不均衡に肥大していると考える醜形妄想」「体臭・口臭がきついとする妄想」などです。

一般的には発症が早く (20代から)、男性に多いとされています (「寄生虫妄想」は50代以降の女性に多し)。最初に受診するのは「皮膚科」「形成外科」「泌尿器科」などで、そこから紹介されて精神科に行くことになります。

 


🔴 誇大型

「自分には才能がある」「重大な発見をした」など、壮大な内容を妄想するタイプです。

 


🔵 混合型

上述した様々なタイプの妄想が複数混合して現れることもあります。

 


🔴 特定不能型

上記のいずれにも該当しない妄想の場合、特定不能型と分類されます。

 

 

「認知症」と「妄想性障害」の違い

認知症は、進行するにしたがって「自分を取り巻く状況を正しく理解し、何が求められているかを判断する」…という基本的な認知機能が衰えます。「理解力の低下」「思い込み」「被害者意識」などです。

そのため、認知症の行動と心理症状の中で「妄想」の出現頻度は高いのですが、その内容は「妄想性障害」のそれとは異なります。 

 

わかりやすく言えば、「妄想性障害」の妄想では認知機能が低下しておらず、「認知症」の妄想では認知機能が低下しているのです。

前者の妄想内容は多彩ですが、その特徴は「対象が身近な人でなく、社会の不特定の人たちである」ことです。「社会から迫害される」という内容もあり、統合失調症の妄想に近い特徴を持っています。 

 

一方で、「認知症」の妄想は、たとえ認知機能が比較的良好な状態であっても、妄想内容は体系的でなく、身近な人を対象にする傾向にあります。アルツハイマー病の「盗られ妄想」、レビー小体型認知症の「幻覚妄想状態 」などがそれにあたります。

アルツハイマー型認知症は初期に妄想がみられ、妄想性障害と似ていることがありますが、認知障害が現れる点で異なります。

 

 

その他の病気との違い

 

◉ 「せん妄」との違い

せん妄の症状にも妄想が含まれますが、意識水準の変動と認知障害が現れる点で妄想性障害とは異なります。

 


◉ 「統合失調症」との違い

「統合失調症」は、以前は精神分裂病と呼ばれていた病気です。陽性症状といわれる幻覚・妄想などや、陰性症状といわれるうつ病のような症状も現れます。診断・治療に至るまでに時間を要する傾向にありますが、早期診断・早期治療が回復の鍵です。

ちなみに、「妄想性障害」の妄想は「統合失調症」のそれとは異なり、実際に起こりうる内容の妄想が主症状です。妄想以外に、統合失調症と共通する症状はありません。いずれの病気もここ数年で、比較的副作用の少ない新しい治療薬を使えるようになりました。薬を継続使用することが病気をコントロールする上で重要ということを肝に銘じておきましょう。

 


◉ 「気分障害」「不安障害」との違い

気分障害には「うつ病」などがあり、不安障害ではパニック障害があまりにも有名です。「妄想性障害」は、これらの障害とも明らかに異なります。

 


◉ 多動性障害 (ADHD) との違い

ADHD「注意欠如・多動性障害」は、子供だけでなく大人の病気としても問題になるケースがあります。一般的には落ち着きがなく、授業中歩き回ってしまうようなお子さんをイメージして頂ければと思います。「妄想性障害」はこのADHDとも明らかに異なります。

 

 

「妄想性障害」の原因

妄想性障害の原因は今もって不明です。しかし、妄想性障害の人は、この障害に関連した性格(疑い深い、嫉妬深い、秘密主義など)が多くみられるようです。また、家族にも妄想性障害がみられる確率が高いことがわかっています。

 

 

治療法

妄想性障害の患者さんは、一般的に治療を拒否する傾向があります。医療機関を受診するのは、家族に無理やり連れてこられるか、事件を起こして警察関係者と一緒に来ることが多いとされています。

精神療法を行う場合は、集団療法より個人療法のほうが効果的です。通常は外来治療ですが、場合によっては入院が必要になります。激しく興奮した患者さんに対しては、抗精神病薬を投与することもあります。大規模な臨床治験はありませんが、ほとんどの臨床医が「妄想性障害の選択薬」として抗精神病薬を挙げています。

 

妄想性障害の経過は、約50%が寛解、20%が軽快、30%が不変です。予後がよい患者さんの特徴は、「仕事や社会の適応水準が高いこと」「女性」「発症年齢が30歳以下」「突然の発症」「症状の持続期間が短い」ことが挙げられます。そして、「被害型」「身体型」「被愛型」は、「誇大型」や「嫉妬型」に比べると予後がよい傾向があるようです。

もしかしたら松居一代さんなどは「妄想性障害」の可能性もあるのではないでしょうか。いや、彼女に限らず、有名・著名な方々は割合、「発達障害」や「メンタル系疾患」に悩まされている傾向にあります。適切な治療が施されていることを、心から願うばかりです。

 

 


最終更新日:2019/03/22