「認知症」に起因する様々な問題とその対策

 

認知症が進行してくると、周囲の人から「問題行動」と受け止められる異常な言動が出てくることがあります。これらは「周辺症状」と呼ばれ、「身体状態の悪化」「環境の変化」「介護する人との関係性」などが影響して出現する…と考えられています。

しかしながら、単に「問題行動」として否定的に受け止めるのではなく、何らかのメッセージと捉えてその背景を探ってみることも大切です。

 

認知症の人が体感している世界は、(脳機能が障害されることにより) 実際の周囲の状況とは異なったものになっています。「不潔」「失禁」「徘徊」「不穏」「暴力」「妄想」…といった行為は、認知症の人にとっては理に適った行動であり、不適切なケアに対する当然の反応だったりするのです。

そこで、周囲の人たちが対応に困ることの多い症状と、それに対する対処法についてまとめてみました。

 

うつ病

まずはじめに、実際は認知症でないのに「認知症」と診断されてしまう人が年間3,000人以上いる…という事実を皆さんご存知だったでしょうか?

彼らを改めて診断してみると、正しい病名として「うつ病」「せん妄」「薬の副作用」などが挙げられるそうです。

 

現在、認知症の高齢者は全国に450万人以上いると言われていますが、2025年には730万人 (高齢者の5人に1人) にまで増加すると考えられています。

ここで気をつけておきたいことは、「うつ病と認知症は誤診されやすい」「薬の種類によっては、副作用として認知症に似たうつ症状が出てしまう」…ということ。もちろん、高齢者の多くがうつ病を発症していたりするので、認知症とうつ病を併発しているケースも少なくないのですが…

 

そこで、家族は、医師のセカンドオピニオンなども含めて「認知症」なのか「うつ病」なのか「薬の副作用なのか」、あるいはそれらの複数が併発しているのかをきちんと見定めることが大事になってきます。

診断が出たら、今後の対策を専門家 (医師など) としっかり話し合いましょう。

 

 

 

暴力・攻撃的な態度

「ちょっとしたことで怒る」「興奮して大声を出す」「暴れる」…こうした行為は、脳内の扁桃体という部分が敏感に反応することで起こります。「認知症になると性格が変わる」とも言われています。

家族の方はこうした事情をきちんと把握した上で、「本人は不安を抱えながら精一杯頑張っているんだ」と考えてみることから始めてみましょう。

 

確かに、急に性格が変わって乱暴になった認知症の人に、思わず感情的に反応してしまうこともあるでしょう。しかしながら、認知症の人を叱っても「悪循環」「逆効果」になるだけです。

介護する側される側の双方が無駄にストレスを抱え込みすぎないためにも、介護にはできるだけ多くの人を巻き込んで、アドバイスや支援を受けるようにしましょう (けっして独りで抱え込んではいけません)。

 

 

 

徘徊・行方不明

認知症が原因で、外出先から自宅に戻れなくなってしまうケースもあります。多くの場合は警察に保護されるなどして無事自宅に戻れますが、怪我したり亡くなってしまう場合も。名前や住所が言えず、行方不明者のまま長期間医療機関や施設などで過ごすことにもなりかねません。

そこで、こうした認知症患者 & その家族を支えるために、地域住民を中心として「徘徊・見守りSOSネットワーク」を構築したり、各自治体で徘徊探知機 (GPS) の貸出サービスを行うなど、積極的な共生施策が必要となってきます。

現在あなたがお住いの地域で「まだまだこうしたサービスは充実していないなぁ」とお感じの方は、あなたが発起人となって動いてみてはいかがでしょうか。

 

 

 

ゴミ屋敷・孤独死

近年、「ゴミ屋敷」が社会問題となってきています。家にゴミを放置したりしたままの状態は「セルフネグレクト(自己放任)」とも呼ばれ、全国に数万人いると推計されています。

こうした人たちは地域や家族から孤立しているため、最終的には誰にも看取られることなく息を引き取ることに。

 

セルフネグレクトに陥るきっかけは様々です。認知症やうつ病、配偶者の死亡などから喪失感が増幅し無気力に陥っている人もいます。

そこで、このような悲しい人生の終い方を減らすためにも、地域社会は日頃から「声かけ」「挨拶」を徹底し、交流豊かな町つくりに注力すべきです。孤立死予防に向け、これまでになかった積極策が求められます。

 

 

 

高齢者虐待・介護殺人

認知症高齢者には予測を超えた行為・言動が多く、対応する介護者に多大な身体的 & 精神的ストレス (介護負担) がかかってしまいます。

どんなに献身的な介護を続けていても、先の見えない介護疲れを誰にも相談できず、将来を悲観し、最終的には「虐待」「殺害」「無理心中」に至ってしまう場合も。

そうなってしまわないためにも、「介護を一人で抱え込まないこと」(介護負担の軽減) が重要です。負担を家族で分担したり介護サービスを積極的に利用するほかにも、身近な相談窓口となっている地域包括支援センターなどに頼りましょう。

 

 

 

消費者被害

多くの高齢者たちは (認知症でなくても) 悪質な訪問販売・オレオレ詐欺などに騙されやすくなっています。事実、高齢者の消費者トラブルに関する相談は年々増え続けています。相談内容は、健康食品の送りつけ商法や高額な布団、住宅リフォーム工事など多岐にわたります。

こうしたトラブルを防ぐためには、家族や周囲の人々が「変化や違い」「おかしな人の出入り」などに気づいてあげることが大切となってきます。

 

 

 

車の運転による事故

高齢者ドライバーの交通事故件数は年々増加傾向にあります。特に、認知症高齢者の場合、「道に迷う」「車の操作が分からなくなる」「一方通行や高速道路を逆走してしまう」といった現象が生じ、大きな事故につながってしまうことがあります。

そうならないためにも、(不便よりも安全を優先し) 免許証の返納を早期に行うようにしましょう。行政は、医療機関への受診や買い物が車を利用しなくても済むような地域づくりを進めていかなければなりません。