「糖質制限」は健康長寿のためには危険?

糖質制限 (血糖値を下げる) のため、ダイエットのため、炭水化物の代わりに他のものを食べる人がいます。確かに糖分の過剰摂取が健康に悪いことは明らかです。ごはんやパンといった炭水化物、お菓子、ジャガイモといった糖質を多く含む食物を食べると、血液中のブドウ糖濃度が急上昇するからです。

もちろん、人が活動するためのエネルギー源として使われる「糖」は必要不可欠なものなのですが、余った糖は体脂肪として蓄積されてしまいます。正常な範囲内 (空腹時の血糖値が100㎎/dl未満) に保たれていればブドウ糖は悪者ではないのですが、ひとたびその数値を超えると、人体に悪影響を及ぼす毒にもなるのです。

 

「糖」は様々な病気の原因に

高血糖は糖尿病の原因になるだけではありません。体内の過剰なブドウ糖が脳内のタンパク質にくっついて、アルツハイマーの一因にもなるのです。

カレーにラーメン、牛丼にパスタ……。そんな「糖質過多」な食生活を送っていると、いずれは不健康になってしまうのです。

 

 

とはいえ不足すると・・・

ものには限度というものがあります。過剰な糖分摂取が健康に良くないのは確かなのですが、かといって、あまりにも取りなさ過ぎるとこれまた危険なのです。「糖質制限」のために体重が減り、糖尿病などのリスクは減るかもしれませんが、その代わりに筋肉量も落ちてしまいます。

また、糖質制限を行うと肝臓や筋肉の中にあるグリコーゲンが激減し、体温が下がったりスタミナがなくなったりします。体内の水分も少なくなり、身体全体が乾燥するのです。皮膚は乾き、しわができやすくなり、美容にもよくありません。さらに問題なのは、60歳を超えてから筋肉が落ちるとちょっとしたことで転倒し、寝たきりになる可能性も高まります。つまり、極端な糖質制限は絶対にすべきではないのです。

ハーバード大学が行なった研究では、『低炭水化物・高タンパク質』の食生活を送った人はそうでない人に比べて心筋梗塞や脳卒中などの発症リスクが1.6倍に高まったということがわかりました。日本国内の研究でも、『糖質制限食を5年以上続けると死亡率が高まる』と報告されています。

 

 

血糖の上昇をコントロールしよう

このように、急激かつ極端な「糖質制限」は糖尿病患者の治療やダイエットには役立つかもしれませんが、健康長寿のためにはマイナス要素の方が多いのです。エネルギー源として不可欠でありながら摂り過ぎると毒になる「糖質」。健康のためには、この厄介な物質とうまく付き合っていくことが肝要になってきます。

同じカロリーのものであっても、血糖の上がり方は「食べ物」「食べる人」「食べる順番」によって異なります。この血糖の上昇をコントロールするのに重要な指標として「GI値」(グリセミック・インデックス) というものがあります。

 

GI値は血糖値上昇のスピードを測ったもので、この数値が高く (100に近ければ近いほど) 血糖値が急上昇し「動脈硬化」「心筋梗塞」「脳梗塞」のリスクが高まると考えられています。というわけで糖質を摂る際にはこのGI値を参考に、その値が低いものを優先的に食べるようにすることが大切です。

主食でいえば、精製された小麦と塩が主原料のパン類は95とGI値がきわめて高いのですが、パスタは65と低めです。また、同じ米でも白米が88に対して玄米は55とかなり低めになっています。麺類ではうどんが85と高く、そばが54、中華麺が50となっています。

こうして見てみると、炭水化物の中でも (精製された小麦粉で作られた) パンのGI値の高さが突出しているのがわかりますね。さらに食パンや菓子パンにはマーガリンのような有害脂肪分も多く含まれています。コンビニで売られているようなパン類、サンドイッチはできるだけ口にしない方が身のためです。

 

 

日本人にはパンよりご飯がGood

確かに白米のGI値は88と高めで、糖質制限食を勧める医者の中には白米を目の敵にする人もいます。しかしながら、数十年前の日本人は今よりもはるかに多くの炭水化物を摂っていました。それでも糖尿病は少なかったのです。

一方で、パンにはバターを塗ることが多く脂質も一緒に摂りがちです。糖質と一緒に脂質を摂ると、長時間高血糖を維持することになり、血管にも負担がかかります。こうしたことから、日本人にとってはパンよりもご飯の方が良いのではないでしょうか。

 

 

ジャガイモやバナナはほどほどに

野菜にもGI値の高低はあります。たとえばジャガイモのGI値は90、ニンジンは80、山芋は75と、ホクホク感の強いものは概ねGI値が高い傾向にあります。なので、フライドポテトを好んで良く食べるような方は注意が必要です。

一方で、しいたけなどのキノコ類は28、キャベツは26、ほうれん草は15と、葉物などのGI値は概ね低めになっています。また、同じ芋でもさつまいもは55とジャガイモに比べる低い値になっています。フルーツを見てみると、たとえばパイナップルは65、バナナは55と予想通りやや高めの数値となっています。

 

とりわけバナナは健康に良い食べ物として頻繁に食べられている食品なのですが、糖質の面では優れた食品とは言えません。『果物は身体に良い』と信じ込んでいる人も少なくありませんが、糖質が多いことも忘れてはいけません。

そもそもバナナはアフリカや中南米では焼いたり蒸したりして主食として食べられている果物です。それをデザート感覚で1本食べると、明らかに糖質オーバーになってしまいます。

 

 

おわりに

肉や魚のGI値は比較的低めですが、加工されたちくわ (55) や焼き豚 (51) などはやや高めとなっています。乳製品で注目したいのは、普通の牛乳 (25) よりも低脂肪乳 (30) の方がGI値が高いという点。健康のためにと思ってなんとなく美味しくない低脂肪乳を選んでいる高齢者も多いかもしれませんが、実はそうでもなかったりするのです。自分の身体にとって「糖質」と「乳脂肪分」のどちらが悪いのか、もう一度考え直してみる必要があるでしょう。

また、ヨーグルトも意外に糖質が多く、若い人には良いかもしれませんが中高年の方にとっては糖質が多すぎるのであまりお勧めできません。

 

最後に、食べる順番も大事だということを覚えておきましょう。野菜など、食物繊維が多いものを先に食べ、糖分の吸収を遅らせる努力が必要です。規則正しく一日3食食べることも大切です。なぜなら、長時間食べないでいると食事をしたときに急な血糖値の上昇が起こってしまうからです。

あれこれ「糖」のことについて語ってきましたが、エネルギーの源ともいえるこの物質と健全に付き合うことが健康長寿の秘訣と言えるでしょう。