「晩婚」「別居」の夫婦が養育里親研修を受け登録した話
「子どもがほしい。でも、自分と配偶者の年齢を考えると今から出産や子育ては現実的ではない。」このように、不妊や育児に関する悩みは晩婚さんの多くが直面する問題です。
ただし、その解決策は夫婦によって千差万別。今回ここに紹介する方法は「里親」です。2人揃ってアラフィフ (50歳前後) のA子さんB男さん夫婦は、よくよく話し合った結果、「里親になる」決断を下しました。
20代前半で出会った2人はその後四半世紀も友人関係のままでした。しかし、40代半ばにして結婚。共に仕事を優先し、関東と九州の遠距離で結婚生活を続けているのです。
「でも、やっぱり子供はほしいよね。」
アラフィフ婚にも様々な形があると思いますが、2人は「友だちから夫婦になり」「共に仕事を続け」「それでも子どもはほしい」という状況の中、ある一つの解決法を考え出したのです。
それは里親。。。
里親研修と登録について
児童福祉法により、養育里親希望者に認定の要件として「研修」を受けることが義務付けられています。つまり、「里親になりたい」人は都道府県もしくは都道府県から委託を受けた社会福祉法人などが行う「研修」を受ける必要があるのです。
【 基礎研修 】
まずはじめに、
里親希望者は、児童相談所や里親支援機関にて里親制度についてのガイダンスを受け、里親制度についての基礎と概要を理解するために「基礎研修の講義」を受けることになります。この講義を受講した後、児童福祉施設の見学などの実習を受けなくてはなりません。
この講義と実習を終えて、基礎研修が終わったことになります。
【 認定前研修 】
次に、
認定前研修 (講義 → 実習) を受講します。その後都道府県は養育里親研修の過程を終了した者に対して修了認定を行い、修了証書を交付します (修了証書の有効期間は交付された日から2年間)。
受講と並行して、里親希望者は、児童相談所に里親認定の申請を行い、児童相談所からの家庭訪問・調査を受けます。
【 里親登録 】
認定前研修が修了すると、
調査結果を踏まえた上で児童福祉審議会里親認定部会が開かれ、里親として認定(または不認定)されます。この通知を受けて里親登録の申請をすると、晴れて養育里親名簿に登録されることとなるのです。
【養育 里親研修の内容 】
基礎研修・・・講義1日、実習1日
認定前研修・・・講義2日、実習2日
そして、5年目の登録里親で登録更新を希望する者は「更新研修」(講義1日) を受ける必要があります。
A子さんはなぜアラフィフまで結婚しなかったの?
25〜35歳の頃をアメリカで過ごしていたA子さん。帰国のきっかけは2001年の同時多発テロでした。ビザの発給が厳しくなり、A子さんは現地で働き続けることが困難になります。
というわけで帰国後、東京で仕事を見つけたA子さんは相変わらず気ままな独身生活を続けます。40代のA子さんはまだ結婚を考えたりはしなかったのでしょうか?
「何人かとお付き合いはしていましたが、結婚を考えたことはありませんでした。正直、『もっといい人がいるんじゃないか』という気持ちが常にあったんです。」
「学生時代や仕事関係の友人知人は今でも結婚していない人の方が多いので、母親以外から『結婚はしないの?』と聞かれたことはありません。母親も私が40歳を過ぎたあたりから何も言わなくなりました。諦めていたのだと思います。」
そんなある日、飲み会で再会したのがB男さんだったのです。そして、親しい友だちの期間が数年続いてから付き合うようになったのです。
大恋愛というよりも「一緒に飲んだり旅行をしていて居心地がいいから」という理由で恋人に移行し、結婚するに至ったのです。大人の恋愛はこれぐらいの熱量がちょうどいいのかもしれませんね。
「別居」「遠距離」婚を選んだ理由
まずはじめに結婚前、2人は「子供がほしいかどうか」を話し合いました。なぜなら、A子さんの年齢では厳しいものがあったからです。
B男さんは「子どもを作ることは考えていない」ということでした。むしろ、九州に住み続けている両親の世話やお墓の管理が優先事項です。
「子作りは必要ない」・・・ということであれば2人で知恵を出し合えば何とかなる。そして結婚。2人は、それぞれの仕事をこれまで通り続けながら、遠距離のままで結婚に踏み切るのです。以来2人は東京と九州の遠距離別居結婚を続けています。
「最初は私が仕事を辞めて九州に行くことも考えました。でも、営業職のダンナは平日は西日本各地を飛び回っています。どのみち土日しか会えないのであれば、一緒に住む理由はほとんどありません。月に2、3回はダンナが東京に来て会っています。」
「若いうちは無理だったと思います。私は精神的に不安定だったので、彼に依存して縛ろうとしてしまったでしょう。結婚してもすぐにケンカして別れていたはずです。」
「40代の今は『精神的にも経済的にもダンナさんに頼らないのが当たり前』という感覚です。ダンナが心の支えではありますが、お互いの生活を尊重できている気がします。」
「それぞれ会社の定年までは頑張って働いて、老後は関西あたりで住もうと話しています。関東と九州の中間地点だし、私は阪神タイガースのファンだからです (笑)」
お互いに納得できるのであれば、週末婚も成り立ちやすいのかもしれませんね。
おわりに ☆
A子さんは、年貢の納めどき、なんていう気持ちで結婚しましたが、今ではダンナと結婚して本当によかったと思っています。B男さんは一番の理解者で、いろんなことをやりたがるA子さんを受け止めてくれる人。
性格は違うも共に理解し求め合っている2人。そんな2人が里親を志したきっかけは夫婦で参加している反原発デモでした。
「私たちには子どもがいないけれど、自分たちの老後だけを考えるのは虚しい。未来のために何かをしたい。子どもに関わりたい。」そう思ったのです。
そしてあれこれ話し合った末に2人が見つけた答えが「里親」だったのです。各自治体の児童養護施設などから「一時預かり」の形で子どもたちを自宅に受け入れるのです。長くて18歳まで、短ければ夏休みの1泊だけ。様々なパターンがあります。
ただ、別居婚という形をとっている2人が応募できる自治体はそう多くはありません。A子さんは「応募資格は緩いけれど里親研修は全国有数の厳しさ」で知られる関東地方の自治体を見つけ、その自治体に引っ越しをし、2人揃って厳しい研修を受けました。
応募するにはA4で10枚近い記述式の質問票に夫婦で答えなければなりませんでした。自分たちの子ども時代から振り返って書かねばならないのです。
すごく時間がかかりました。その後、何人もの面接官から1回につき2時間半もかかる面接を受けます。研修ではあらゆるワークショップに参加しなければなりません。
ある人によれば、あまりに大変な里親研修に耐えきれずに脱落したり、夫婦仲がおかしくなってしまうケースもあるそうです。それでも2人はこの厳しい研修に意義を感じています。
「心に傷を負っている子どもたちを受け入れて一緒に生活するのは、子どもたちだけでなく私たち大人にも負荷がかかります。」
「これくらいの研修を乗り越えられないようでは里親なんて到底無理だと思うんです。」
子は鎹 (かすがい)という諺がありますが、もしかしたら子どもがいない夫婦にとって、里親制度で築かれる親子関係にはそうした意味合いもあるのかもしれません。
支え合えるパートナーを得た人間は、一人で生活していたときよりも格段に強くなります。その強さを、自分たちの生活向上のためだけでなく、「未来」「子供」のために使うこと。
たとえ血がつながっていなくても「未来」を感じて優しくすることはできます。自分たちの力を誰かのために使うプロセスにこそ、夫婦円満の秘訣があるのかもしれませんね。