65歳以上の人口が、全人口に対して7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」と呼ばれます。現在の日本は、世界に先駆け「超高齢社会」に突入していることになります。
日本は、1970年に「高齢化社会」に、1995年に「高齢社会」に、そして2010年に「超高齢社会」へと突入しました。今後も高齢者率は高くなると予測されており、2025年には30%、20060年には40%に達すると見られています。
このような状況の中、医療・福祉・社会保障などの問題にうまく対応することが喫緊の課題となっています。家族構成についてみてみると、現在の日本は核家族化が進み、単独世帯・夫婦のみの世帯・夫婦ともに65歳以上の世帯などが増加しているのが現状です。
そのため、「介護できる者がいない」あるいは老老介護の世帯が多くなってきています。今後は、地域社会全体でこうした問題を支え解決していく必要があると言えるでしょう。
今回は、そんな「認知症」「介護」を少しでも理解してもらうために、関連の「映画」数本を紹介したいと思います。
1973年に森繁久彌、高峰秀子、田村高廣をキャストに映画化され大ヒットした本作は、まだ「認知症」という言葉がない時代に描かれた物語で、だからこそ突き刺さるものがあります。
《あらすじ》
妻を亡くした84歳の男性 (森繁久彌) は、認知症の症状が見られるようになり、息子 (田村高廣) のことがわからなくなってしまいます。息子の嫁 (高峰秀子) は、苦しみながらも義父の介護をする中で、誰よりも彼に対して人間の尊厳と愛情を感じるようになっていきます。
1985年に公開された、認知症の義父を息子の嫁が世話する物語です。
《あらすじ》
老父と老母は二人暮らし。老父は、歴史資料館の館長を辞めた頃から認知症の症状を見せ始めます。その後、老母が倒れて入院。しかたなく長男夫婦が父を引き取り一緒に暮らすことに。やがて徘徊が始まり、家族の識別もできなくなってしまいます。
老母は亡くなり、義父の世話をする嫁が夫の無理解に癇癪を起こし、ついには病院に入れることに。しかし、病室で拘束される父を見て、夫は退院させ引き取ることにするのです (嫁にはアルコール依存の傾向が)。
1986年に公開された三國連太郎主演の本作もまた、認知症を題材にした映画の一つです。
《あらすじ》
老夫婦の妻が認知症、夫 (三國連太郎) の方にも精神状態に異変が。。。冒頭、妻が亡くなり、これは殺人かもしれないという謎が。夫は「おらが殺しただ」と自首し、そこから時間をさかのぼり、妻の認知症が描かれています。初めは徘徊、そして歩けなくなると寝たきりに。
家族は面倒を看きれず病院に入れるのですが、ひどい待遇を見て家に連れ帰ることに。寝たきりの妻はひたすら「殺しておくれ」と口にする。夫は何度か妻を殺そうとするのだが……。この夫も逮捕後、認知症がひどくなり、失禁したり、面会に来た息子のことも分からなくなるのです。
吉行和子・原田美枝子さんがキャスティングされた本作は、ちょうど介護保険制度導入直後の2002年に公開されています。
《あらすじ》
老いた母 (吉行和子) が三男夫婦と同居するところから物語は始まります。環境が変わったせいか、変調をきたす母。しかし、夫は介護に無関心で、母の面倒は嫁 (原田美枝子) がみることに。母は「金を取られた」と騒いだり、大量のパンを買っては隠しておいたり。。。
嫁は職場の同僚に「一人で背負おうとするな」と忠告され、介護保険について調べ始めます。そして週に5日ヘルパーさんに来てもらうのですが、母の症状は進行し続けます。ついにグループホームに入れることを決意。結局、母と嫁が会話を重ねることでグループホームには行かせないことになるのですが、その後、昼間だけ老人の面倒を見てくれる集まりを知り、そこに通うようになるのです。
若年性アルツハイマーを取り上げた2005年公開の映画で、若年性認知症を受け止める本人とその家族の過程がリアルに描かれています。
《あらすじ》
働き盛り (50歳) のサラリーマン佐伯 (渡辺謙) が突如「若年性アルツハイマー病」に侵されてしまう。記憶を失っていくばかりか、感情もコントロールできなくなっていく佐伯。進行する病の恐怖と闘う姿と共に、彼を支え続ける妻 (樋口可南子) の姿も描かれています。
記憶や正気を失っていく本人の恐怖は切実ですが、それを受け止め共に乗り越えようとする妻の存在が、夫婦であり続けること、人を愛すること、そして人間として生き続けることなどを静かに問い掛けています。
認知症で記憶をなくした老人が、彼を気遣う家族に見守られながら自分の妻に恋をする姿を描いた人間ドラマ (2008年公開)。主人公の老夫婦を、共にオスカー俳優のマーティン・ランドーとエレン・バースティンが演じています。
《あらすじ》
小さな町に一人で暮らす老人ロバート (マーティン・ランドー) は孤独な日々を過ごしていました。そんなある日、メアリー (エレン・バースティン) という美しい女性に出会い、彼の味気ない日常は心ときめく日々へと変わっていきます。しかし、実は彼が恋した女性は自分の妻であり、認知症で記憶をなくしたロバートを家族が見守っていたのでした。
2013年に公開された本作は、認知症介護の苦労や辛さをユーモアと温かみを交えながら伝えています (岩松 了、赤木春恵、原田貴和子、加瀬 亮、大和田健介、竹中直人ら豪華キャストで映画化され大ヒットを記録)。
《あらすじ》
主人公は62歳の漫画家であるゆういち (ペコロス)。89歳の母みつえ (赤木春恵) は認知症の症状が顕著になり、グループホームを利用するようになります。徐々に息子ゆういちのことも忘れ始めるみつえ。”ボケるのも悪いことばかりじゃない”…というメッセージとともに、認知症の母とハゲた息子の切なくも笑える日常が描かれています。
認知症介護に希望を与える、アメリカで実際に行われた挑戦を描いたドキュメンタリー映画です (2013年公開)。「学習療法」を通じて、認知症患者の症状が改善されていく様子は、多くの人に希望を与えるはずです。
《あらすじ》
平均年齢80歳以上、多くの認知症患者が暮らすアメリカ・オハイオ州の高齢者介護施設。スタッフのジョンはこの施設に毎日通い高齢者に接しています。「僕の名前を知っていますか?」と尋ねますが、返ってくる答えは「いいえ」ばかり。しかし、日本で生まれた認知症改善プログラム「学習療法」に取り組み始めると、徐々に反応に変化が生まれてくるのです。
認知症の父親と、家族を顧みず仕事に没頭してきた息子とその家族の再生を描いた、さだまさしの短編小説を映画化した作品です (2014年)。
《あらすじ》
大手家電メーカーに勤務する俊介 (緒形直人) は、一見すると順風満帆なサラリーマンだったが、家庭では妻・昭子 (南果歩) との関係が冷え切り、次第に息子、娘との関係も破綻していく。そんな生活の中、同居する父の俊太郎 (藤竜也) が認知症を発症したことから、俊介は家族との絆を取り戻すべく、家族を連れ出し父親の故郷へ旅をする。
近年、医学的にも注目されるようになった認知症やアルツハイマー患者への音楽療法を題材に描き、2014年サンダンス国際映画祭ドキュメンタリー部門で観客賞を受賞したドキュメンタリー。
《あらすじ》
特効薬もないままに患者数が爆発的に増え続け、先進諸国で社会問題となっている認知症やアルツハイマー病。アメリカのソーシャルワーカー、ダン・コーエンは、患者が自分の好きな歌 (パーソナル・ソング) を聴くことによって音楽の記憶と一緒に何かを思い出すのではないかと思いつく。
早速その療法を実行に移してみると、娘の名前すら思い出せずふさぎこんでばかりいた94歳の認知症男性ヘンリーが、好きな曲を聴いた途端陽気に歌いはじめ、仕事や家族のことまで饒舌に語り出すという効果が表れた。さらに他の患者たちも、この音楽療法によって劇的な変化を見せるように。人間が失われた記憶を取り戻す奇跡の瞬間をとらえ、新たな治療法の可能性を探っていく。
石本浩市さんとレビー小体型認知症を発症した妻・弥生さんとの介護の10年間を追ったドキュメンタリー映画です (2014年公開)。精神的負担から浩市さんはうつ病となってしまいますが、家族や親戚、地域の人々の助けを借りながら、よりいっそう絆を深めていきます。誰にも起こりうる認知症介護。人間の尊厳、愛情とはなんなのか?…深く突き刺さります。
《あらすじ》
医師である浩市さんは、妻の弥生さんが統合失調症と診断された3年後、若年性レビー小体型認知症と診断され意気消沈。精神的な負担も大きく本人もうつ病となってしまいます。けっして綺麗事だけでは済まされない認知症ケアの問題を、夫妻の日々から視聴者に訴えかけてきます。
日本では2014年に公開された本作は、スペインのアカデミー賞と言われるゴヤ賞で「最優秀アニメーション賞」と「最優秀脚本賞」を受賞した作品です。
《あらすじ》
主人公である元銀行員のエミリオは、認知症の兆候がみられるようになり、養護老人ホームで暮らすようになります。施設で暮らすのは、それぞれ個性が強く思い出を持つ老人たち。彼らは症状が進行し、完全に介護が必要な入居者が住む「2階」に移動させられることを恐れています。ひょんなことから、自身がアルツハイマーで2階送りが近いと感じたエミリオはある行動に出ます。
ジュリアン・ムーア主演の、若年性アルツハイマーを描いた映画です (2015年)。
《あらすじ》
50歳の言語学者アリスは、大学での講義中に言葉が思い出せなくなったり、ジョギング中に家に戻るルートがわからなくなったりして、その異変に戸惑います。やがて若年性アルツハイマー病と診断された彼女は、家族からサポートを受けるも徐々に記憶が薄れていきます。そんなある日、アリスはパソコンに保存されていたビデオメッセージを発見し……。
認知症により徘徊する母とそれを見守る娘の姿を描いた
2015年公開の映画です。
《あらすじ》
作品に登場するのは、認知症を患い昼夜の別なく徘徊する酒井アサヨさん(87歳)と、それを見守る長女の酒井章子さん(55歳)。10年ほど前に認知症と診断されたアサヨさんはその後病状が進行し、現在は章子さんとともに生活している。映画は二人の生活を追い、認知症とともに暮らすことや、老い、そして人間とは何かを問いかけるものとなっている。
心配した章子さんは当初、アサヨさんを家から出さないようにしていたが、ある日疲れ果ててドアを開けたという。しかし意外なことに、自由をつかみ取ったアサヨさんに笑顔が戻った。認知症患者にどう対応すればいいか、映画の中にはヒントとなるようなさまざまなシーンが盛り込まれている。
「ベトナムの風に吹かれて」(2015年) は、認知症の母を実の娘 (松坂慶子) が世話をするお話です。
《あらすじ》
兄の家族に疎まれていた母をベトナムの日本語学校で働いている娘が呼び寄せる…という展開になっています。前半での母はほとんど普通の老人のごとき振る舞いなのですが、次第に認知症がひどくなっていきます。「おむつじゃ、できねえ!」と叫び、一晩中娘を起こし続け。。。。しまいには娘も「いいかげんにしてよ」とキレてしまい、母をベッドに縛りつけることに。
4度のがん手術を受けた夫と、若年性アルツハイマー病を発症した妻の絆を、実話をもとに描いています (2016年公開)。
《あらすじ》
胃がんを発病した夫・誠吾を支え続ける妻の八重子にある日突然若年性アルツハイマー病が襲いかかります。誠吾は4度のがん手術から生還しますが、妻・八重子の病状は進行。大好きだった歌を口ずさむと笑顔を見せる八重子ですが、徐々に記憶を失くしていきます。誠吾は、そんな八重子を介護していく過程で、1日1日をかけがいのない思い出にしていくことを誓います。
2013年に制作され、日本では2017年に公開されたドイツのドキュメンタリー映画です (介護を通して家族の絆や愛を取り戻す物語となっています)。
《あらすじ》
ドイツのドキュメンタリー作家・ダーヴィッド・ジーヴェキングは、母グレーテルを認知症介護するため実家に戻ります。記憶を失うことで解き放たれたように奔放に振る舞う母と介護に疲れてしまった息子。そんな介護の日々から、家族は新たな愛の形を取り戻していきます。
本作は、吉永小百合さんが認知症と真正面から向き合った2018年公開の映画です。
《あらすじ》
1945年、南樺太に一輪の桜が咲いた。やっと咲いたその花は、江蓮てつたち家族にとって希望の花のはずだった…。その年の8月、ソ連軍の侵攻が起こる。てつは息子二人と共に樺太を脱出。決死の思いで北海道の網走へと辿り着く。そんな満身創痍の親子を待っていたのは想像を絶する過酷な生活だった。意識を失うほどの厳しい寒さと飢餓、その中を親子は懸命に生き抜くのだった。
1971年、成長した次男の修二郎はアメリカで成功し、日本初のホットドックストアの日本社長として帰国。15年ぶりに網走を訪れた。そこには長男の姿はなく、一人、夫を待ち続けながら慎ましい生活を送る年老いたてつの姿があった…。
「毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル 〜 最期に死ぬ時」
2018年に公開された本作は、認知症の母との日常をありのままに描いたドキュメンタリー「毎日がアルツハイマー」シリーズの最終章 (3作目)となっています。
《あらすじ》
関口祐加監督がアルツハイマー型認知症と診断された母・宏子さんを自宅介護する生活はついに8年目。。。両股関節の痛みが悪化し、リハビリも含め7週間の入院生活を送った関口監督は、自身も「要支援」となった現実に直面。介護される側とする側は同時に老い、時を重ねてその線引きがあいまいになっていくことを実感します。
そんな折、母・宏子さんは脳の虚血性発作を起こして意識不明で緊急搬送となります。大事には至らなかったものの、何も覚えていない母を前に、「この先どれだけ母を支えていけるのか」と不安を感じながら、母の命の責任を負うということを真剣に考えるのです。
いかがでしたか?
観てみたい映画はありましたでしょうか?
「認知症「介護」「家族のあり方」などについて「よしっ、きちんと理解してやるぞっ!」と意気込むのではなく、まずは純粋にエンターテイメントとして楽しんでみてはいかがでしょうか。
その中で、少しでも参考になったり気持ちが楽になることがあれば幸いです。ぜひ、チェックしてみてくださいね。