発達障害者の個性を理解し大事にしよう

 

発達障害の人は、ものの考え方や感じ方が 他の人とかなり異なります。その割合は15人に1人くらいなどと言われたりもしますが、実は、発達障害を広義に解釈すると3割くらいはいることになるでしょう。

例えば、芸能人・スポーツ選手・芸術家・医師・学者・研究者・漫画家・政治家・官僚といった特殊な職業に就く人や、地方で農漁業に従事する人たちの中にも多くの個性派たちがいます。彼らは、自分に合った仕事を見つけることができ幸せそうに見えますが、他者との違いに苦しんだ経験もあり、広義の意味では発達障害だったりするのです。

エジソン、アインシュタイン、ビルゲイツ、スティーブ・ジョブズ、長嶋茂雄、明石家さんま、三木谷浩史、大谷翔平といった「天才」と呼ばれる人たちは、発達障害の傾向があります。一般人の中にも多くの発達障害者がいるわけですから、調査や診断が及んでいないものの、その実数はかなり多いはずです。

 

発達障害者の孤独

日本で「発達障害者支援法」が施行されたのは2005年のことです。以来、子どもに対しては乳幼児検診で早期発見され、早期療育、早期支援などが謳われてきましたが、その検診から漏れてしまっている軽度の発達障害者や現在すでに大人である人たちの中にも多くの該当者が存在しています。

重度の自閉症や知的な遅れを伴う場合には比較的早く発見されるわけですが、軽い場合には本人の性格や個性と捉えられ、気づかれないケースも多々あるのです。大人になってから、社会に適合しない理由を「本人の努力不足」「しつけが悪かった」などと決めつけられ、ひとりで悩み苦しんでいる発達障害者のなんと多いことか。

 

 

職場にて

会社員のAさん (20代男性) は高学歴で各種スキルや語学力は高いものの、人とのコミュニケーションが苦手です。臨機応変に対応できないため、上司から叱責されることもしばしば。そんな日々が続き、ストレスからうつ病に。そして、うつ病の治療と同時に心理検査や知能検査を受けたことでASDであることが判明したのです。

 

エンジニアのBさん (30代男性) は昔から「理屈っぽい」「完璧主義者だ」などと評されています。そんなBさんは上司から「真面目で仕事が正確だ」と評価された結果、月200時間が続いてしまい心を病んでしまいました。病院ではASDやADHDといった具体的な診断は下りなかったものの、「適応障害」と診断されました。また、詳細な検査を受けると「ハイコントラスト知覚特性」があることが判明。これは、まったく疲れを感じないか、突然体が動かなくなるほど疲れるといった極端な知覚を持っているのです。

 

公務員のCさん (30代女性) は、昔から理数系は得意でしたが読書感想文などは苦手でした。ストレスや疲れが溜まると、周囲に「そんなこともわからないんですかっ」と強く言い放ってしまうことも。そんなCさんは学生時代に不登校を経験するも、公務員として就職。整理整頓を重視するあまり、自分の机には“マイテプラ”が常備されています。職場では理解ある上司に恵まれ、得意な数学的知識も活かせる仕事に就いています。しかしながら日常の「変化」に弱く、ちょっとしたことでパニックになり泣き出してしまうことも。海外赴任や流産などを機にうつ病を発症し、その後「ASDとADHD」と診断されました。

 

 

「理解して」

もう1人、ある男の子の例を紹介しておきましょう。彼はとても知能が高く、幼稚園の頃には普通に計算できる子でした。ところが小学校に入り、算数の授業が始まった初日にすごく暗い顔をして家に帰ってきてこう言ったのです。「小学校の算数って難しい」「リンゴ3個とミカン2個を足せって言うんだよ」

普通、リンゴ3個とミカン2個を合わせていくつ?と問われたらほとんどの人は「5個」と答えますが、この子は「リンゴとミカンは足せないでしょ」と考えたのです。確かに、例えばビル3棟とミカン2個を合わせていくつ?と問われたら、これを「5個」と考えるのは発達障害じゃない人でも抵抗があるのではないでしょうか。

つまり、論理的に考えると本当はこの男の子の方が合っているのです。ところが、何となくそれで納得してしまう人が大勢いるものだから、そちらの方が正しいとみなされるわけです。こんなところで引っかかってしまうのが発達障害の人たちの悩みなんです。こういう気持ちをぜひわかってあげてください。

 

 

自閉症スペクトラム

発達障害の一つに「自閉スペクトラム症」というものがあります。これには、「コミュニケーションや対人関係がうまくいかない」「興味が狭く限られている」「行動をパターン的に繰り返す」といった症状があります。いわゆる「こだわり」と言われるものです。

ここで注意してほしいことは、たとえこのような症状が大なり小なりあったとしても、本人や周りの人が「生活が不便」と感じなければ、あるいは感じていても診断を受けなければ病気や障害と判断されないこと。実際のところ、世の中には「対人関係がうまくいかない」「少し会話がかみ合いにくい」「ちょっとこだわりが強い」という人は昔から大勢いるわけです。こだわりのラーメン屋さんやちょっと偏屈な職人さんなどもそうです。

ただし、そんな人たちが皆困っているわけではありません。このように、発達障害はその症状だけでなく、生活に困るかどうかという点も含めて診断されるのです。

 

 

ADHD

発達障害の一つであるADHD (注意欠如・多動症) には、「不注意」(うっかりミス) や「多動・衝動性」(落ち着きがない) (思いついたら後先考えずにやってしまう) といった特徴があります。

しかしながらサザエさんのようにおっちょこちょいでそそっかしい人なんてそこら辺にたくさんいるわけで、ADHDの診断は本当に難しいんです。サザエさん本人や磯野家の人たちが困っていれば、病院に行って「発達障害」と診断を受け問題視するかもしれませんで、どうやらそうではありません。本人も周囲の人たちも「個性」と捉え、前向きに生活していっているのです。

つまりアニメ「サザエさん」からは、その人に合った環境の中にいれば発達障害の症状は目立たない・困らないということがよくわかります。逆に、症状が軽い人でも環境が合わなければうまくいかなくなることもあります。サザエさんも、将来的にうつや情緒不安定といった二次障害にならないといいですね。

 

 

こだわり

前述した通り、自閉症スペクトラムの人には強い「こだわり」があります。例えば、ミニカー集めに熱中する子の場合、集め出したら「このシリーズの車は全部集めなきゃ気が済まない」と自分でノルマを決めてしまうわけです。こうした「こだわり」は多々不自由をもたらしますが、「帰宅したらすぐに宿題を済ませる」といった具合に、良い方向に働く場合もあるのです。

逆に度が過ぎてしまうと、苦手なことを「頑張れ」と言われ続けて自分を追い込んでしまうのです。結果、PTSD (心的外傷後ストレス障害) の際にみられるフラッシュバックが頻繁に出現する人もいます。過去のことをよく記憶するため、何もないのに突然昔の嫌な体験を思い出し、心臓がドキドキしてパニックになるのです。

このように、発達障害の人たちは、重度の症状がある人はもちろんのこと、一見症状がないように見えるいわゆる「目に見えない異常」の人も、実は内面ではものすごくつらくなることがあるのです。

 

 

おわりに

発達障害の人は、思春期以降にうつや不安などの二次障害を生じることが多いと言われています。でも全員がそうなるわけではありません

ところでみなさんは、発達障害の人のうち、症状が目立たずうつや不安などの二次障害も防ぐことのできた人のことを何と呼んだらいいと思いますか?この人たちは、発達障害の特性はありますが、「障害」と呼ぶ必要はありません。

 

発達障害は、何らかの脳の異常によって起きています。けっして育て方が悪いからではありません。しかし、発達障害として生まれてきた後、どんな大人になるのかは、「育ち方」が大きく関係してきます。

彼らの特性をきちんと理解した上で、個別に必要なことを身につけさせる育て方が大事になってきます。また、本人が興味を持って取り組めるような目標と方法を考える必要もあります。「できるはずだ」と思ってほかの子と同じ目標を掲げ続けると、その子はつらくなってしまいます。その点は十分ご注意を。