障害・高齢で増え続ける女性の「クレプトマニア」(窃盗症)

 

交通事故の後遺症で「高次脳機能障害」を負った後、窃盗を繰り返すようになった東京都内の女性(30代)が、常習累犯窃盗罪に問われて起訴されました。

弁護側は、「彼女は障害の影響で記憶力が低下し、欲求を抑制できない心神喪失状態に陥っている」とし、「介護や見守りなど福祉的支援が必要だ」と訴えています。

 

外見からは分かりづらく「見えない障害」とも呼ばれている「高次脳機能障害」の責任能力が法廷で争われたケースは少なく、地裁の判断が注目されています。

女性は事故後、急に窃盗行為を繰り返すようになり、これまでに少なくとも3回有罪判決を受けました。ちなみに、これまでの裁判でも当時の弁護人が精神鑑定を求めていたのですが全く認められてこなかったのです。

 

2度服役し、家族が行政に相談。初めて専門医に通院するなど支援の準備が整いつつある中、再び万引き事件を起こし起訴された今回。

「高次脳機能障害」の責任能力はどう判断されるのでしょうか。

 

 

 

 

高次脳機能障害とは

交通事故や水難事故などで後天的に脳が損傷を受け後遺症として残る障害のことです。記憶力・注意力・集中力の低下、疲れやすくなる、感情を抑えられなくなる、などの特徴がありますが、症状は人によって異なります。

外見上は健康な人と全く見分けがつかないため、障害を抱える前と比較され「別人のようだ」と誤解・否定されることも。全国に数十万人いるとされています。

 

知的障害認知症の場合、福祉や医療で更生を支える取り組みが進みつつありますが、高次脳機能障害の場合はまだ、患者や家族をサポートする態勢が整っていないのが現状なのです。

ある作業療法士の方は「万引きは、”欲しい物を我慢できない” 障害の結果です。適切な支援を受けられず、放置されてきたことが累犯の背景にあるんです」と指摘しています。

 

誤解され、孤立しやすい環境下にある高次脳機能障害者とその家族たち。障害への理解を深め、累犯につながらない支援態勢が不可欠なのです。

 

 

 

 

「1人暮らしより楽」

 

高齢女性が杖や手押し車を使い作業所に向かう姿も珍しくはありません。

「3回の食事に風呂や寝る場所もあり、一人暮らしより楽だよ。体力的にもきつくないしね。」

 

70歳を過ぎて初めて刑務所に入ったAさんは、友人に頼まれ借金の保証人となり、多額の負債を背負ってしまいました。金に困窮し、盗みを覚えたのです。出所しても身寄りのない1人暮らし。窃盗をやめることはできず、再犯を繰り返しては刑務所に戻ってくるのです。

「歳も歳なのでもう絶対にしない」と話すAさんですが、今回で服役は4回目です。

 

ドアがピンクに塗装された刑務所内

 

万引きを繰り返し、別の刑務所に服役している90代の女性もこう語っています。「食事と医療費は無料!光熱費もかからず不便なことは何一つない。1人で暮らすよりも楽しく、何度もここに来る人の気持ちがよく分かります。」

 

 

 

 

増える刑務官の「介助」負担

法務省によれば、刑務所に入ってくる女性受刑者の数は20年前の倍  (毎年2,000人以上います)!男性受刑者が06年の3万699人から昨年は1万9415人まで減少したのとは対照的なのです。

女性が高止まりしているのは、再犯率が高いとされる薬物犯罪や窃盗に手を染める割合が男性より高いためとみられています。高齢者の人数も20年前の15倍ほど、319人に上っています。

 

「5分前に言ったことを忘れたり、毎日している刑務作業が突然できなくなったり…」

西条刑務支所に勤める20代の女性刑務官は、認知症の疑いがある受刑者への対応に頭を悩ませています。根気強く接することを心掛けていますが、「作業のやり方を一から教えても次の日には忘れている。その繰り返しなのです」。

 

 

「罪を犯した人を更生させたい!」と刑務官になって5年目。初めは親や祖父母くらいの年齢の受刑者への言葉遣いなどに戸惑っていましたが、今では自然に接することができるようになりました。ただ、高齢受刑者の入浴や着替えの手伝い、体調管理など、介助の仕事が増えているのです。

負担を減らそうと、法務省は2015年度からの3年間で女性刑務官を200人増員する計画を進めています。しかし、刑務官を目指す女性受験者は少なく、目標とする増員数にはまだまだです。

 

30年以上勤務しているある女性刑務官は、暴力を振るう認知症の受刑者や、ガラスを割って自殺を図った受刑者に対応した経験があります。

「女性がこの仕事を続けるのは本当に厳しいことです」

 

 

 

 

命や家族の大切さを学ぶことが犯罪防止に役立つ

「赤ちゃんは生まれた時から目が見えています。目を合わせながら話しかけて!」

麓刑務所では、助産師会が40歳未満の女性受刑者を対象に「母親教育」を行なっています。命や家族の大切さを学ぶことが犯罪防止に役立つと考えているからです。助産師の説明を聞きながら赤ちゃんの人形を順番に抱いた受刑者は「かわいい」と笑顔を見せています。

 

それでも、高齢者の再犯防止策は見いだせていないのが現状なのです。高齢受刑者の場合、職業訓練や就労も容易ではありません。福祉との連携を進めつつ、再犯防止の観点から出所後の社会的孤立を防ぐためのネットワークを構築する必要があるのです。

 

高齢の女性受刑者はこう言っています。

「ひとりぼっちになったら駄目。絶対にまた刑務所に入ります。」

 

今後ますます高齢化は進み、独居のお年寄りも増え続けていきます。高齢の女性受刑者増の背景には、刑務所の中にしか老いる場所を見つけられないという現実もあるようです。悲しいことです。

 

 

 

 

増える「常習累犯窃盗」の高齢者

「被告人を懲役5年に処する」

直立したまま裁判官の判決言い渡しを聞いていた被告席の高齢男性の罪名は「常習累犯窃盗」。72歳で実刑判決を受けた男性被告の「罪」は一見、軽微に思える内容でした。100円ショップでパン2個を窃盗。それが、判決として認定された内容なのです。しかし、実刑判決には理由があります。

 
この男性は2011年、常習累犯窃盗で懲役4年6ヶ月を言い渡されました。刑務所に服役し、刑期満了で出所したそのわずか2カ月後に、再び窃盗行為に及んだのです。これまでも万引きを繰り返してきている男性は、人生の半分を刑務所で過ごしています。仮釈放中の再犯も珍しくありません。

 

 

なぜ窃盗を繰り返すのか?

被告人質問で男性はこう吐露しています。

「自分でもよく分からない…」

 

物を売っている場所に行くと「なぜか衝動的に盗んでしまう」。「刑務所に入りたくて盗んだわけではない」と故意は否定していますが、お金はあるのに万引きしてしまう。利益目的の盗みではなく、盗みたいという衝動を制御できない病気「クレプトマニア(窃盗症)」の可能性もあるのです。

 

 

「最後に何か言っておきたいことはありますか?」。裁判官の問いかけに対し男性はこう答えています。

「今度出所したら、病院に行ってみようと思います」

 

 

 

 

名作「レ・ミゼラブル」の主人公と同じことが近代日本でも起こっている…

19世紀フランスの文豪ビクトル・ユゴーの名作「レ・ミゼラブル」では、主人公が1個のパンを盗んだ罪で19年間服役しています。しかし、小説の話だけでなく、わずか数百円分の万引きによる懲役5年は、21世紀の日本社会で現実に起きているのです。

法務省の犯罪白書によれば、窃盗での検挙者数は2014年度で13万1490人と年々減少傾向にある一方、再犯率は増え続けています。一見軽微な犯罪に重い量刑という「釣り合いの取れない」行為をなぜ止められないのでしょうか?

 

 

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最終更新日:2017/09/02